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2006.02.11

gift

20051010_133 物語に喚起されるさまざまな出来事、感情、手触り。奇妙にも絶妙な感覚が、絡みつくように思い出される、古川日出男・著『gift』(集英社)。19もの物語は、どれも短い。あっけないほどに終わりを迎えてしまう。けれどその余韻は、あっさりしているのに深い。するりと読み手の中に入ってくる、流れを感じる文体。その流れのままに読んでよいものなのか、流れをせき止めて目に見えぬ部分を思うべきなのか。文字にならない思いを、省かれてしまった言葉を思うべきなのか。深読みして響いてくるのは、かつて私が抱いたことのある記憶で、物語に刺激されたそれは、もはや私の記憶じゃない。誰のものでもない。そんなふうに思ってしまうほどに、何かをひどく掻き立てられる物語の数々。

 ここからは、色鮮やかに掻き立てられるいくつかの物語を。「低い世界」は、私にとっては、かなり色濃い。12歳と13歳の境界を描いた物語である。13歳になる日を迎えてしまった少女は、とうとう境界線を越えてしまった。重くのしかかる思い、目の前に仕掛けられた罠。少女が怯える先にあるのは、果たして物語の中に示されている低い影なのだろうか。この日を待ちかまえていたような、しだいに強まる雨足。小さな子どもたちの気配。少女を閉じこめるように囲むものは、純粋さを装う無防備な姿をしている。でも少女は知っている。<低い者>のことを。秘密を知る少女は、それゆえに狙われる。物語に漂う緊迫した感じが、何とも懐かしい記憶を呼ぶ。長い年月にも歪まない、鮮明な色をして。

 私自身にとって(或いは女の子なら誰でも?男の子もみんな?)、12と13は大違いなのだ。なのに、なぜ古川氏がそれを知っているのか。その部分が興味ある重要ポイントなのだけれど、もしかしたら全く意図せずに描かれたものなのかもしれない。もしくは、私が単に自分の少女時代の記憶に振り回され過ぎている、という可能性もある。それは否定できない。要は、私が物語を物語として読めなかったということだろうか。でもある日、予期していた境界を越えてしまう感覚というのは、確かにあった。私だったら、確かにあの日だ。あのときの光り、あのときの音、あのときの色、あのときの匂い。私は覚えている。今もずっと、感じている。記憶が私を呼び過ぎなくらいに、届いている。響いているのだ。

 で、もう1つだけ「さよなら神さま」を。主人公の男は疲れている。今ある日常に。例えば、自分自身に。目の前の仕事に。少ない残金で必要な物を買いに出かけ、視線の先におかしなものを見てしまう。一人の若者がトランクを開ける。そして、その中に入る。内側からトランクは閉められる。時間が経っても出てくる気配はない。そんな光景である。男は監視せずにはいられない。じっと見張る。さりげなくも執着を見せる。トランクには、見ている間にまた一人収まってゆく。そこにある静けさと奇妙な光景は、男を疼かせる。好奇心だけじゃない何か。心奪われる何かを。些細なことで変わる心の動きが、面白い。男の向かう先は、どこだろう。私の知るどこか。それとも見知らぬどこか。もしくは、神さまが嘲笑うどこか、なのだろうか。

4087462331gift (集英社文庫 ふ 23-3)
古川 日出男
集英社 2007-11

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コメント

『gift』、良いですね。「さよなら神さま」は私も印象深かったです。奇妙なシチュエーションのなかで、現代人の哀しみが表現されていて気に入りました。全体的にこの短編集は、どれも心に響いてくるようなものばかりだったなあと思います。

投稿: T | 2006.02.12 09:19

Tさん、コメントありがとうございます!
正直言うと、予想外によかったです。奇妙なシチュエーションだけでも大満足。そこにさまざまな心に響く感情が横たわっているのがいいですよね。
Tさんのレビューも拝見しました!19の物語すべてについて書かれていて、再びあれこれ思いを巡らせました。

投稿: ましろ(Tさんへ) | 2006.02.12 15:53

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