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2006.02.23

六の宮の姫君 あなたのための小さな物語

20051010_001 活字が苦手な方にもオススメしたくなるような、おいしいところだけを集めた、切れ味の良すぎる、すばらしく素敵な短篇ばかりを集めた作品である、赤木かん子編による『Little Selections あなたのための小さな物語 24 六の宮の姫君』(ポプラ社)。すべての物語は、六の宮の姫君について描かれ、それぞれの物語の色を感じさせながら、相互に響き合って新たな色彩をつくり出している。芥川龍之介の描いた「六の宮の姫君」に関する解釈を描く、山岸凉子の『朱雀門』(「甕のぞきの色」秋田文庫より)。今昔物語をもとに独自の結末を加えた、時代を先取りしたような、芥川龍之介の『六の宮の姫君』(「地獄変・邪宗門・好色・藪の中他篇」岩波文庫より)。福永武彦による『六の宮の姫君がはかなくなる話』(「新装版日本古典文庫11 今昔物語」より)。本家である『六宮姫君夫出家語』を収録。

 山岸凉子の『朱雀門』は、もちろん漫画。女性であるのなら、今を生きるのなら、ここに描かれることは少々痛く感じるものかもしれない。自分のやりたいことを優先して生きてきた30代の春秋子(すずこ)に憧れる少女千夏(ちか)が、芥川龍之介の「六の宮の姫君」を読み、その解釈からさまざまなことに気づき、ほんの少し自分の思いを新たにする物語である。お見合いを通じて、自分という人間の姿を思い知った春秋子の語る1つ1つの言葉が、胸にじんと響いてくる。“「生」を生きない者は、「死」をも死ねない”ということに。“ものすごく好きなことがあるということは、すごく嫌いな(許せない)こともある”ということを示していることなど。思わずドキリとさせられる。

 そして、次の短篇である「朱雀門」に登場する芥川龍之介『六の宮の姫君』は、その解釈に導かれてぐっと分かり易くなって、その世界を堪能させてくれる。たび重なる出来事に対して、姫君がどんなにふがいない者であったのか、どんなに愚かであったのか、それを明確に意識の中に染み込ませる。人は運命というものに怯えて、それに甘んじるだけではいけないことを。見たくないものは見ないで、ただ待つだけ、耐えるだけではいけないことを。それは、女性の自立があたりまえになってきた今の時代に生きる女性に必要な教訓めいたことにも通じてくる。ひどく心が痛い。でも真実を突いてくる姫君の物語であることは間違いないのだろう。文豪は、やっぱり凄い作品を遺したと思う。

 3話目の福永武彦の『六の宮の姫君がはかなくなる話』では、その痛かった心がほんの少し救われる。今昔物語の元々のかたちに近いのは、どうやらこの解釈のよう。姫君が待ち、耐え忍んだのが夫という設定になっていること。姫君の死を悲しむあまりに、夫が出家する結末となっていることが、芥川龍之介の物語とは異なっている。そのせいで、姫君の不幸がクローズアップされて、夫がかなり姫君に恋い焦がれていた印象が残る。ちなみに編者である赤木さんは、“こんだけ、忘れられなかった、だの、好きだった、だのいうんならさ、出家するくらいなら、もっと早くなんとかしろよ!”なんてことを解説で語っている。可笑しく、見事なツッコミ。女性だけじゃなく、男性もなかなかにふがいない。ラストの今昔物語の『六宮姫君夫出家語』は、味わい深い原文なり。

4591075753六の宮の姫君 (Little Selectionsあなたのための小さな物語)
赤木 かん子
ポプラ社 2003-04

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