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2006.01.28

星の王子さま

20050124_077 さまざまな細やかな配慮が感じられる新訳バージョンの、サン=テグジュペリ著、石井洋二郎訳『星の王子さま』(ちくま文庫)。昨年こぞって新訳が出まわったうちの1冊である。全部に目を通しているわけではなく、一番はじめに翻訳されたバージョンとの違いを説明したり分析したりできるほどの手腕を持ち合わせているわけでもないので、比較はしないしできないが、“読み手や著者への心遣いが何とも心地よい”と思わせてくれる作品であることは、はっきり断言することができる。作品としての形態、言葉の選び方にとどまらず、作品に対する姿勢も、文体の雰囲気も、心地よいと思った部分である。他の新訳についても同じ思いを抱くかもしれないけれど。

 この作品は、人の姿の見えないほど遠くの砂漠に不時着したある飛行士が、幻みたいな不思議な男の子(王子)と出会い、別れゆくという、あまりにも有名な物語。王子の話す、ひとつひとつの言葉は純粋で清らかで嘘がなく、忘れていた何かを、懐かしい感覚を呼び覚ましてくれる。王子の言葉に耳を傾ける飛行士には、妙なリアリティを感じる部分があちこちに見られて、物語がただのファンタジーではないことを伝えてくる。遥か彼方の小さな星から来た王子の存在が、夢でも幻でもないということも。そして、人と人とが出会うこと。その魂が通い合うこと。それがたとえ刹那であっても、誰かの中に残るということ。そんな、あたりまえながらも大切なことを、思い出させてくれる。

 物語の中で、“ぼくとなじみになってくれよ!”と王子に言うキツネがいる。親しみある言葉で言うなら、友だちという意味だろう。王子がキツネにその意味を問うと、“きずなを作るってことさ”と答える。極端な話、なじみになる相手というのは、誰だっていいのかもしれない。私たちはありふれた人間であるし、どこにでもいる誰かに含まれているのだから。キツネにとっては、なじみになるのが王子じゃなくてもいいわけである。たまたま出会ったのが、あなただった。私だった。それだけのことだ。そして、お互いがお互いにとって、たった1人の人間、或いは1匹のキツネになる。それが“なじみになる”ことなのだと、キツネによって知るのである。“なじみになる”までの過程も、実に興味深い。

 この作品の中で最も有名な言葉としたら、“いちばん大事なことは、目には見えない”という言葉だろう。これについては、長年語り尽くされ、さまざまな事柄に例えられ、用いられた言葉であるから、敢えてあれこれ語る必要はないが、私には、あまりに皮肉めいた言葉として聞こえてしまう。おまえが大事なものを感じることができないのは、誰かに伝えるすべを知り得ないのは、おまえが愚かで未熟であるからだ…なんていう声として。こんなふうに思うのは、私が人間として歪んでいるというに充分な証拠となる。素直に言葉を受け入れられない心の狭さ、卑屈な精神。それをそのままに甘んじているという怠惰さ。何かを感じたいなら、伝えたいなら、もっと自分を省みる必要があるのだろう。

4480421602星の王子さま (ちくま文庫)
Antoine de Saint‐Exup´ery 石井 洋二郎
筑摩書房 2005-12

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コメント

愛するということはどういうことなのか、あるいは一人の人間として生きるということを教えられるような一冊であるように思います。

サン・テグジュペリは戦争の時代を生きた人ですが、バラは祖国のメタファーであると語られることがあります。バラが美しく感じられるのは、望むと望まざるとに関わらず、ずっとそれ(そこ)に慣れ親しんできたからであり、愛しんできたからであると。

年を経るに従って、様々な場所で生活する機会を与えられ、また様々なものと出会うようになりますが、唯一だといえるものはなかなか見つけだすことはできない。

オーウェルは、''England your England''というエッセイにおいて、郷土愛とナショナリズムは異なる概念であると述べています。ナショナリズムはその概念を利用して権力の増進に役立てようとする意図が隠れているけれども、郷土愛は、それが世界一優れたものであると声高に主張することはないけれど、各々にとって一番良いと感じられるものである、と。

サン・テグジュペリのいうところのものは後者ではないかと感じられます。そいう読み方もありではないかと

投稿: るる | 2006.01.28 21:22

るるさん、コメントありがとうございます!
そういう読み方もあるのですね。とても勉強になります。

愛に纏わるさまざまな考え、意図するところ、伝わるもの、感じ受け入れるもの。
それは人それぞれですが、私にはまだまだ愛を語る余裕がないようです。
というか、信じることができないままなんです。きっと。
だから記事内に「愛」という言葉を書かなかったのかもしれない。
そんなことを今になって気づくのでした。

投稿: ましろ(るるさんへ) | 2006.01.29 16:30

はじめまして。私が読んだ「星の王子さま」は、まだ新訳が出る前の訳でしたが、読んでみて、はじめて奥が深い作品なんだって気付きました。何度も読んでいるうちに、もっといろんなことが見えてきそうです。

ましろさんの本の紹介文、とてもすてきです。これからも楽しみに、また遊びに来たいと思います。

投稿: sayano | 2006.02.04 14:23

sayanoさん、はじめまして。コメントありがとうございます!
“すてき”ですか(笑)嬉しく言葉を受け取りました。

私もその奥深さに読み返してみて気づきました。
時の流れがそうさせたのか、私が変わったのか、作品そのものにさまざまな引き出しがあったのか。なんとも不思議な心地ですよね。

投稿: ましろ(sayanoさんへ) | 2006.02.04 16:43

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サン=テグジュペリ, 内藤 濯 星の王子さま  あまりに有名な本。    「ねえ、ひつじの絵を描いて」  砂漠の真ん中に不時着した飛行士のところに、不思議な男の子が現れる。飛行機が故障して修理をしていたので、いらいらしながら‘ひつじの絵’を何枚か描い... [続きを読む]

受信: 2006.02.25 22:42

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