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2006.01.15

空飛び猫

20051212_056 “ファンタジー”の意味には“幻想”という言葉が並んでいるが、私の中では2つの言葉は違うものとして認識されている。例えば、アーシュラ・K・ル=グウィン著、村上春樹訳『空飛び猫』(講談社文庫)は、ファンタジーとして認識される。そして、そう判断されたものというのは、私の苦手とするジャンルの物語でもある。猫狂いでなかったら手に取ることのなかった類の、手頃な短さでなかったら最後まで読み終えることのできなかった類の、そういう類のものとして。物語の世界に浸ることも、活字の渦に呑まれることもよしとしないもの。それは、自分を甘やかさないための読書課題として有効になる。たぶん。そんな勝手な理論ゆえに、しばし自分を戒める。

 さて、物語の内容から。わけがわからぬまま翼の生えた子猫を4匹産んだ母猫。その理由を“自分の元を飛び立ってゆく子猫たちの夢をみたから”だと母猫は云っている。周囲はその理由を“父猫が飛びまわって遊んでばかりいるような猫だったから”なのだと云っている。どちらの理由も定かではないが、子猫たちは母猫の元を巣立ってゆく。厳密に云えばそれは自立とは異なるもので、渡り鳥のようにどこかを目指して飛ぶのとも異なるものである。子猫たちは、暮らしやすい場所というものがどんなものであるかも知らないし、安全な場所、餌を見つけやすい場所、それすらも今イチピンときていない。行き当たりばったり、という表現がしっくりくるような感じである。

 この物語のよいところ。それは、翼があるからといって“猫である”という部分が曖昧にされていないところである。猫というものが、大空を自由に飛ぶのに適していない部分。例えば、すいすい飛べずに鳩を羨む場面や、長時間飛ぶのに翼が痛くなる場面、丸々と太っている体型ゆえに余計に翼を羽ばたかせなくてはならない場面など、それがきちんと書かれているのだ。そういうファンタジーな物語に対してのつっこみどころをしっかり突いてくる部分というのは、見逃すことはできない。少しずつ様々なものからコツを学び、見るものに興味を抱き、おのれの姿を認識してゆく過程が丁寧に、かつシンプルな文章で描かれているのだ。ユーモアもしっかり含みつつ。

 後半に描かれる“良い種類の手”についても、猫らしく気ままに高貴とも云える姿勢で対応しているのが心憎い。翼があろうとなかろうと、彼らは紛れもなく猫なのである。偶然にもかたちばかりの翼が生えていただけ。そして、それをうまく活用して利口に生き抜いてゆくには、まだまだ彼らは未熟であるということ。4匹が一緒にいるうちは。1匹だけでは“良い種類の手”を見抜けないうちは。翼が猫にもたらす今後の展開。それを期待して続編2冊を読んでみたい気がする。でも、やっぱりファンタジーな物語は苦手であることに変わりはない。ちなみにこの本、河合隼雄著『猫だましい』(新潮文庫)がきっかけで手に取った作品。猫の出てくる作品は、猫狂いなら読まねばならない。

4062632101空飛び猫 (講談社文庫)
Ursula K. Le Guin S.D. Schindler 村上 春樹
講談社 1996-04

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4101252262猫だましい (新潮文庫)
河合 隼雄
新潮社 2002-11

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コメント

 このシリーズは「ジェーン」まで読みました。
 村上さんの文章も良いんだけれど、これは元のお話がとっても良いですよね。物語の中に、きちんとした哲学というか主張のようなものが一本通っている感じがしました。
 いやぁ、こういう絵本に小さい頃から触れている外国の子どもたちがうらやましい。

 僕が思うに、とっても切実な考えがきれいなお話に昇華している印象でしたね。それがナニかを言っちゃうと野暮ですので言いませんが。
 良いお話というのは、きっと読んだ人がいろいろ感じられるものなんでしょう。

投稿: ろぷ | 2006.02.22 06:19

ろぷさん、コメントありがとうございます!
私はファンタジー同様、村上さんが苦手なんです。
実際に読んでみたら、読まず嫌いに近いものであったことに気づくんですけれど。
アーシュラ・K・ル=グウィンの物語に小さな頃から親しんでいたら、
今の読書傾向とは異なる私になっていたんだろうな…
なんて、つい思いをめぐらせてしまいます。

もっともっと物語に対して、いろんなことを感じられる人でありたいです。

投稿: ましろ(ろぷさんへ) | 2006.02.22 23:23

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