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2006.01.02

ぼくの小鳥ちゃん

20051209_027 雪が待てなくて本を開いた。雪の降る朝に突然やってきた、気が強くてワガママだけれど可愛らしさを認めざるを得ない小鳥と主人公<ぼく>の物語である、江國香織・著『ぼくの小鳥ちゃん』(新潮文庫)を。するすると読めて瞬く間にフェイドアウトしてゆくような短い物語ながら、私は心がひどく重くなった。多分それは、単に私側の問題である。気持ちの置き場所が悪かった。もしくは、正しい位置を見失っていたという表現が適切なのかも知れない。物語が意図する部分を通り過ぎて、独りよがりな話題を誰彼かまわず持ちかけるはた迷惑なタチの。そう言い訳する自分がまた、いつまでも諦められずに駄々をこねる幼子のようで情けないが。

 読み終えて真っ先に思ったことは、“あぁ確かに人に羽根がなくてよかった”ということ。思えば人は、何かと手に入らないものを求めがちな生き物である。その代表と言えるのが、鳥が持つ羽根。或いは、翼と表現されるもの。小さな頃、自分の意志とは無関係に歌わされてきた数々の曲には、鳥に憧れて羽根をこしらえた英雄や自由に空を飛びたいと夢見る少年少女の歌詞があふれていた。何の疑問も持たずに、能天気に切実な表情を浮かべながら歌ってきたいくつもの曲。羽根を持つ鳥が本当に憧れの生き物なのか。果たして鳥は自由に大空を羽ばたいているのか。間違いなく平和のシンボルなのか。なぜ人は自分に羽根がないことに対して落胆するのか。私は羽根なんて、ちっとも欲しくないのに。

 物語の中では、小鳥のことにばかり気が向いてしまう主人公に、そのガールフレンドが言う。“羽根があるとすごく便利ね”と。気まずい空気の車の窓から、小鳥のようにさっと飛び立てたらいいのにと。これは逃避としての羽根の用い方になるのだろう。ドアのロックを外して、ドアを開けて、足を車内から外に出して、道路を踏みしめて、一歩一歩その場から立ち去る…それは確かに面倒だ。実に込み入っている。その点小鳥なら、少しだけ開けていた窓の隙間から飛び出せばいいだけである。あぁ簡単。だって私には羽根があるもの。けれど、ふと思う。一体どこへ飛ぶというのか。目的地はどこか。そもそも小鳥に居場所はあるのだろうか。そんな、たわいなくも大真面目な問いを。

 私が書き連ねた言葉を読んで、そんなに深刻な本なのか。悩むべき問題が隠されているのか、なんて思わなくてもいい。可愛らしい小鳥に、生意気な小鳥に、ワガママな小鳥に、密やかに嫉妬する小鳥に、その魅惑的な存在の小鳥に惹かれればいい。主人公のように、小鳥を“小鳥ちゃん”と親しみを込めて呼べばいい。そして、刹那に小鳥の悲しみを感じればいい。主人公の記憶の断片に寄り添うのもよし。几帳面で優しいガールフレンドに寄り添うのもよし。文章と一緒に物語を彩る荒井良二さんのイラストにうっとりするもまたよし。今度この本を開くときは、きっとこんなにウジウジと戯れ言を持ち出すことはないだろう。でも、これは記録。今日という日に物語に感じたまっさらな私だ。

410133918Xぼくの小鳥ちゃん
江國 香織
新潮社 2001-11

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コメント

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします☆
久々に遊びに来ました~。興味ひかれるタイトルが盛りだくさんでした。
ぼくの小鳥ちゃんは高校生のころに読んだ作品で、わたしの印象では「かわいらしい話だなぁ」でした。
でも、こんな見方もあるんだなぁと。
本っていろんな見方があるんだなと思いました。
特にましろさんの視点って、独特ででも説得力があって素敵ですね☆
羽があったら。。。行くべき場所がある人には便利かもしれませんね。
ワタシなら。。。ブラブラさまよってみたい

投稿: sonatine | 2006.01.04 20:14

sonatineさん、あけましておめでとうございます!
こちらこそ今年もどうぞよろしくお願いしますー★☆★
『ぼくの小鳥ちゃん』記事を書いてから、あちこちでいろんな方の感想を読んだのですが、どうも私のとらえ方は暗かったようで…新年早々悩める乙女と化してしまいました。
“素敵”と言っていただけるとは思っていなかったので、恐縮しながら嬉しくなっております。
おぉ、sonatineさんはブラブラとさまようのですか。興味深いです。
途中で遭遇したりして。
気が向いたら、飛ぶことを怖がる私をぜひ連れだしてくださいな。←弱気。

投稿: ましろ(sonatineさんへ) | 2006.01.04 21:05

ましろさん、こんばんは。

羽の部分はなんとも思わなかったのですが、小鳥ちゃんと彼女の関係の微妙な心地悪さにすこし引っかかりました。
それでもやっぱり小鳥ちゃんはかわいいですね。
こんな小鳥ちゃんと美しい、オルガンのある教会にいってみるの楽しいかもしれません。

ところで、TBを2度ほど送らせてもらったのですが、反映されなかったようです。
記事からリンクをさせて頂いたので、TBのかわりにここで一応ご報告。

投稿: 大葉 もみじ | 2006.01.24 22:53

もみじさん、ごめんなさい!そして、ご報告ありがとうございます!
スパム対策をし過ぎてしまったようで、ご迷惑をおかけしました。
もしよろしければ、またしてくださると嬉しく思います。

小鳥ちゃんとオルガンのある教会…きっと素敵な時間が過ごせそうですね。
そのときはもっと仲良くしなくちゃいけませんね。
私はもっと心を開かなければ。

投稿: ましろ(大葉もみじさんへ) | 2006.01.24 23:45

TBとリンクありがとうございます!

もう一度送ってみたのですが、やっぱり反映されないようです。
何にひっかかっているのでしょうねぇ。

スパム対策、うちでもやっています。
最近、特に変なコメントやTBが増えてますよね。

投稿: 大葉 もみじ | 2006.01.25 11:44

昨晩、スパム対策を止めてすべての禁止IPアドレスを削除したので、
サーバーの方の問題なのかもしれません。
他にもTBが反映されなかったということを知らせてくださった方もいて。
でも、トラブルやメンテナンスのお知らせはなく…
まだしばらくはご迷惑をおかけしてしまうかも。
すみません!

投稿: ましろ(大葉もみじさんへ) | 2006.01.25 14:46

トラックバックありがとうございますー。
そんでもってコメント遅くなってすいません;

羽については私は何も思わなかったのですが、ましろさんの感想を読んで、何とはなしガールフレンドの気持ちも面白く感じてしまいました。あるいは、羽のある小鳥ちゃんがそれでも留まっていることにも注意を向けると、またこの作品のニュアンスって変わりますよね。居心地のいい、あたたかな物語だけれど、それはいつかはなくなってしまう、短い時間のことでしかない。小鳥ちゃんはきっといつか飛び去る。
その意味では 『ホテルカクタス』に通じるものがあるような。記事はなかったと思うのですが、未読でしたら何かの機会にどうぞ。彼女が例えられていた数字の2が出てくるのですよ。

投稿: | 2006.02.09 18:52

司さん、コメントありがとうございます!

羽については誰も注目してないのでしょうか…(笑)
いろんな読み方ができる作品なんだなと、改めて思いました。
小鳥ちゃん、いつか去ってしまうんでしょうか。私は、小鳥ちゃんの行方がちょっと心配だったりします。行き先が果たしてあるのかと。そして、同時にガールフレンドにも共鳴してしまうんですけどね。人間も同じように決まった行き先なんてないのかもしれないけれど、自分の確固とした居場所のようなモノが、私は切実に欲しいのかもしれません。
お、『ホテルカクタス』。未読なので、楽しみに読んでみようと思います!

投稿: ましろ(司さんへ) | 2006.02.10 00:32

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江國香織。こないだのエッセイがちょいと対象外だったので、大人しく小説に手を出してみました。童話というか絵本というか、ファンタジーをはらんだ優しい作品。 ある朝突然やってきた小鳥ちゃんとぼくとの生活の話。小鳥ちゃんは普通に小鳥です。なんとなく星の王子様を思い出しました。えーと、王子様がね、バラの花を大事にしているのですよ。バラの花は気位が高くてわがままなのです。作者の奥さんがきっつい性格していたせいだ―\―\てな感じの話もありますが、何かの比喩というわけではなくて、単純に自分が庇護する存在が欲しかっ... [続きを読む]

受信: 2006.02.07 23:01

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