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2005.12.02

象工場のハッピーエンド

20050815_170 相性が悪いとか苦手だとか云いつつも、気になって手を出してしまう作品がある。多くの人に読まれているからには、何か特別な魅力があるに違いない。だからそれを知りたい。私にとってそういう作品なのが、村上春樹の作品。挫折本は数知れず。でも、懲りない。今回読んだのは、村上春樹・文、安西水丸・画による『象工場のハッピーエンド』(講談社)。1983年の作品を新編集したもの。エッセイと物語の中間、もしくはその境界を行ったり来たりする絶妙な世界がとても心地よい。するするとその世界に引き込まれて浸ることができたのは、シンプルなデザインのおかげかも知れない。画も素敵。語り手の<僕>にも不思議と好感を抱いた。それは、私にとって相当なミラクルだったりする。

 まずは、タイトルになっている象工場が出てくる「A DAY in THE LIFE」から。象工場で働いているということが、ちょっとしたステイタスみたいなものとなっている地方が舞台。その設定だけで、もう読み手としては満足な気分。こんな気持ちになっているということは、苦手を克服できているということか。象工場で働いている者同士が誰一人として口をきかないというのも、象工場でずっと守られ続ける秩序というのも、とってもいい雰囲気。現実から遠い場所にあるものと、限りなくありふれた日常というものが交錯する世界は、こんなにも面白いのか。この調子なら、好きになれそうな予感。

 次は「鏡の中の夕焼け」。街の広場でのバザールで、自分の妻としゃべることができる犬とを交換した男。男は犬の話す“見た者は皆引き込まれてしまう夕焼け”に興味を示し、犬の今後を左右する約束を交わす。人間よりも、犬が上手なのがこの物語のポイントだろうか。思わず、読みながら犬を猫に置き換えつつ。読書中、私の傍でウーウー寝言を云っているニャンコらは、やはり私よりも遥かに上手なのだろうなんて考えながら。それにしても、この物語の中の男は自分の欲望に素直である。手放された妻はどうなったやら…なんて、私はちっとも思うことなく。冷淡な読み手でもいいよね。だって、物語だもの。

 もうひとつ「ジョン・アプダイクを読むための最良の場所」を。春という季節に思い出される作品。作品を読むと思い出される春。いくつかのそういう連鎖は、ほんのちょっとのことながら、私たちの人生や世界観を支えてくれる。そんな内容。この話を読みながら、苦手な作品を読むときは、様々な配慮が必要なのかも知れないと思った。読み手としては、心の平穏なバランスはもちろん、出来るだけ多くのものを吸収するための頭の余裕が必要で、自分の中に取り入れたものを自分なりの言葉で変換する必要がある。そういう環境設定が、挫折作品を読むときに足りていなかったものなのかも知れない。特に村上春樹作品のとき。

4062094509象工場のハッピーエンド
村上 春樹
講談社 1999-02

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