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2005.11.14

カレーソーセージをめぐるレーナの物語

20051101_073 愛には憎しみと嘘がつきものだと、強く感じさせる物語を読んだ。ウーヴェ・ティム著、浅井晶子訳『カレーソーセージをめぐるレーナの物語』(河出書房新社)である。Modern&Classicシリーズは、この本で3冊目。終戦直前の1945年のナチス・ドイツのハンブルクで暮らす一人の女性の無骨でしたたかな人生と、カレーソーセージという、ベルリンやハンブルクなどの北ドイツ地方のファーストフードの誕生の秘密が描かれている。物語は女性が若い脱走兵をかくまうことから始まり、悲痛な恋とその背景にある歴史が、重くならないユーモアを含みながら、読み手をするりと引き込む。

 “カレーソーセージとは何ぞや…?”そんな思いを抱いたまま読み始めた私は、次の疑問を思う。“カレーソーセージとブリュッカー夫人の恋物語は、どう関係しているの?”と。物語は老人ホームにいる年老いたブリュッカー夫人に、夫人の営む屋台でカレーソーセージを食べたことのある<僕>が話を聞き出し、それを語る形式。ときどき語り手はブリュッカー夫人(レーナ)になったり、レーナがかくまった若い脱走兵ブレーマーになったりするのだが、違和感なく物語に入り込むことができる。私が感じている疑問について<僕>が代弁してくれているのが、何ともニクイ。ブリュッカー夫人は、なかなか肝心な部分を語ろうとしてくれないのだ。

 冒頭の“愛に纏わる憎しみと嘘”。これは、この物語では見逃してはならないポイントかもしれない。運命的とも言えるような、食堂で働くレーナと脱走兵ブレーマーとの出逢い。2人を近づけ引き離したのは戦争の終焉。ブレーマーにとって、前線に行くこともレーナの所に留まっているのも、どちらも不安だった。選んだのは生き残ること。ただそれだけ。レーナに惹かれる部分はもちろんあった。だからこそ、彼は打算を隠して嘘をついた。そして、彼女もまた彼に嘘をついた。彼の人生に関わる大きな嘘を。ただ彼を引き留めておくためだけに。自分自身の嘘に苦しめられながら、互いを憎しみながら、2人は愛し合ったのだった。

 レーナという女性。彼女はとても強い。強い自分なりの信念や生き方も、屋台をするべくして自分を奮い立たせて行った取引も…ぎゅっと凝縮された彼女の物語は、とてつもなく心惹かれるものを感じさせる。なかなかのやり手。彼女の語りで一番印象深く残るのは、暗い時代の中にも明るい瞬間があることを教えてくれたことである。その時代が暗ければ暗いほど、その瞬間は余計に明るく輝いて見えるのだと語っている。人生の中であまりにも刹那のそういう時間を、私もいつまでも自分の中に置いておきたい。できれば、ときどき入れ替わって欲しい。さらに言うならば、積み重なっていっぱいに満たしたいのだけれども。自分の思うように物語が進まないのが、現実の厳しさか。

4309204392カレーソーセージをめぐるレーナの物語 (Modern & Classic)
浅井 晶子
河出書房新社 2005-06-10

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