マルコの夢
キノコの世界をほんの少し覗いてきた。たかがキノコ。されどキノコ。それに魅了された人、それと共に生きる人、それのために生かされている人…そんな人々の、或いは人々を支配するキノコの物語が、栗田有起著『マルコの夢』(集英社)である。意識せずとも勤勉さの染みついた日本人の描写、些細な期待を抱かれたことや使命を託されたことに関する単純な舞い上がり、浅はかな流されやすさ、人それぞれが持つ自分自身に対する自負。キノコの不思議だけに終わらない、そういうものがいつまでも余韻として私の中に残った。細やかな設定や配慮は、登場人物を魅力的に見せている。
物語の主人公は、そこそこの大学を出たものの、就職先が見つからなかった一馬。異父姉弟の姉に誘われるままにパリへ向かい、流れのままに三つ星レストラン「ル・コント・ブルー」のキノコ担当となる。その厳重な管理の徹底ぶりは、さすがとしか言いようがない。ある日、店での一番人気のムニュから“マルコ”と呼ばれているキノコの買い付けを頼まれ、その産地である日本へ旅立つことに…。店を辞める決意をしたばかりなのにもかかわらず。その精神的にも肉体的にもたまりにたまったストレスは何処へ。その気持ちはわからないわけではないけれど。何とも可笑しくもある。
さて、キノコの話。物語を読み進めてゆくと、次第にキノコに魅せられている自分に気づく。こりこりした食感。口の奥深くまで広がる香り。わずかに舌を刺激する風味。塩だけのシンプルな味付けと植物油で炒めただけなのに、おいしいと思える。そんなキノコ料理。だし入らずの具材を用いたみそ汁もいい。その正体は一体何なのだろう。アビキネケ?ウニカナカ?もっともっと珍味で美味な知る人ぞ知るキノコ?食べてみたい。間違えた。私で宜しければ、食べさせていただいても…キノコは人を選ぶのだから、安易に食べてはいけないのだ。キノコの計らいに従うまで。キノコ様々。
結末に近づく程に物語は始まりの場面から、いや、それ以前からもう始まっていたことがわかる。心憎い姉の支えと導き。生まれたときからの宿命。多くを語らずとも進むべき道は決まっているものなのか。そもそもはどこから。さてはて、人の運命は何に左右されるものなのか。主人公一馬と自分自身のこれまでとを振り返って、はっとする。どんなにもがこうとも、悩ましく憂鬱に浸ろうとも、なるようにしかならなかったことに。努力したことは、もしやただの自己満足に過ぎなかったりして。物事を複雑にしているのはオノレか。人は、物語のように案外単純に出来ているものなのかもしれない。
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コメント
ましろさん、こんにちは。
するすると力が抜けていくような話でした。
キノコ様々…どちらかというと私も悪夢をみそうです。TBさせていただきました。
投稿: りりこ | 2005.12.05 22:15
りりこさん、コメント&TBありがとうございます!
キノコ様の悪夢は、なかなか心地よいものでした。浮遊感と脱力感、そして口中に広がる美味。
こういう悪夢なら歓迎しちゃいます。
投稿: ましろ(りりこさんへ) | 2005.12.06 09:10