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2005.11.20

ニート

20050807_22089 ニートという言葉は好きじゃない。それなのにこの言葉を持ち出したのは、世間でいわゆるニートとされる<キミ>を描いた小説を読んだからにすぎない。社会問題を語れるほどに立派な人間でない私には、そんな少々浮ついた理由が結構似合っているのかもしれない。絲山秋子・著『ニート』(角川書店)には、表題作の「ニート」の続編らしい「2+1」。引っ越しを決めた友人の手伝いに行き、その友人の新たな決意を密やかに知る話の「ベル・エポック」。遠距離恋愛の彼女と、本来ならば母と呼ぶべき笙子さんとの間で揺れる心を描いた「へたれ」。ムショ帰りの男との変態めいた行為を描く「愛なんかいらねー」の5つの物語を収録。

 まずは「ニート」から。小説家の主人公は、切迫している生活についてブログで綴る<キミ>に金を貸そうと思いつく。かつて対等であったはずの<キミ>は、部屋に閉じこもる日々の中で借金と光熱費の取り立てに脅えて、僅かな食事で飢えを凌いでいた。社会から援助を受けるには健康で、他人から援助を受けるには申し訳ない。主人公が<キミ>を好きだと言うにはちょいとだらしがないけれど、きっかけは何であれ、状況はどうであれ、人は些細なことからぐっと近くにも遠くにも行けることを気づかせてくれる。そして、誰かを見捨てるのは余りにも簡単で、自分のことにかまけた者は安易にそれを選ぶことも。

 その続きらしい「2+1」では、少し時が流れていて、主人公と<キミ>とは物理的な距離があるところから始まる。<キミ>は働きだしたものの、数ヶ月で仕事を辞めてしまい、再び窮地に立たされている。女友達とルームシェアしている自分の住まいに<キミ>を呼び寄せて、一緒に暮らすことを考える主人公。冷戦状態の女友達、いつ帰るのか知れない<キミ>。ダラダラずるずるな日常は、タイトルの妙にぴったりである。そんなことを思いながら、私は「2+1」の2が誰と誰を示し、1が誰を示すのかと考え込んでしまった。無機質に感じられる数字には、深くて心が疼くような物が強く込められていたのだ。

 最後に「へたれ」と「愛なんかいらねー」を。こういうタイトルは、著者にぴったりしっくりくる気がする。いずれも物語の中で登場人物が口にする言葉なのだが、この言葉を放つまでの流れや心境が結構唐突に思えた。そこがまたある意味計算なのだろう。印象深かった時点で、私の負けであるから。評価が分かれてしまいそうな「愛なんかいらねー」については、ディテールにまで神経が行き届いているのだなぁと感じられて、決して好きだと言えない内容なのに結構楽しんでいる自分を知った。特に、床の雑巾がけにくくくっと。生活臭あり過ぎ。滲みまくり。放ちまくり。潔癖な私の顔をしかめさせた後、笑わせるとは。

4048736434ニート
絲山 秋子
角川書店 2005-10-29

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コメント

これ昨日読んだんですけどなんだかつかめないまま感想書いちゃいました。いまだつかめないままですけど、友達になれないけど嫌いじゃない、みたいな感じです(・・・。)
確かに生活臭は漂いまくりで切なかったですよね。電話料金の督促書とか本物っぽかったですし。

投稿: ざれこ | 2005.12.13 18:43

ざれこさん、コメント&TBありがとうございます。
確かに!つかめない作品かもしれないですね。するする読めてしまうのに、実際は読めていなかった…みたいな感じが今も残っています。
“友達になれないけど嫌いじゃない”(笑)って、オモシロイですね。
私はきっと、嫌だ嫌だと言いつつも影響されてしまうんだろうなぁと思います。

投稿: ましろ(ざれこさんへ) | 2005.12.14 18:14

ましろさん、こんにちは。Sachiです☆

昨日は、うちの方へもTBしてくださりありがとうございました! とってもうれしかったです♪

で、今日またこちらの記事にTBを送らせていただいちゃいました。

絲山さんの本は、わたしも今のところ全部読んでいて、どれも好きです。ただ自分の中でランク付けした場合、この『ニート』は一番下になっちゃいそうですけど……。(^^;)

「愛なんかいらねー」の雑巾がけのシーン、わたしも苦笑しちゃいました。想像するとなんだか間抜けですよねぇ。(笑)

投稿: Sachi | 2006.01.10 12:42

Sachiさん、コメント&TBありがとうございます!
絲山さんの作品の中では、私も同じくコレが一番下になっちゃいます…ネ。
この作品で、好きだわ。もう絶対大好きだわ、という気持ちが一気に突き放されてしまった感じで。

でも、一度いいなぁと思ったことのある作家さんの作品を、
“あぁ、これは合わないわ”と簡単に思うことは失礼な気がして、
惹かれた部分について記事を書いた次第です。
もちろん、魅力ある作品だからこそ、そういう部分が見つかるのだろうと思ってます。

投稿: ましろ(Sachiさんへ) | 2006.01.10 23:00

とりあえず、やっと読了。どうも、評価できない作品たちでした。
こういうかたちの文学もあるのはわかりますが、さて・・。

投稿: すの | 2006.02.25 15:09

すのさん、コメント&TBありがとうございます!
そうでしたか…なんとも言い難いですが。
でも、最近本になった「沖で待つ」も読むのでしょうね。すのさんも私も。

投稿: ましろ(すのさんへ) | 2006.02.25 16:43

 ましろさん、方城渉です。

 こちらにも「宮沢賢治の風 生徒諸君に寄せる ニートの日」という記事にTBつけさせてもらいました。

 この本読んでませんけど、ましろさんの記事から「ニートの空気」みたいなのを感じました。

 
 

投稿: 方城渉 | 2006.03.02 23:36

方城渉さん、こちらにもありがとうございます!
ニートという言葉の、なんとなくなイメージばかりが先行しているような気がする…
と、いうのが伝わっているならいいのですが。
方城渉さんの記事、ゆっくり読ませていただきますね。

投稿: ましろ(方城渉さんへ) | 2006.03.03 22:08

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