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2005.11.26

あっちの女 こっちの猫

20051010_002 “おれ、今のままでいい”という言葉に、胸がズキンとなった。もっとこうしたいとか、ああしたいとか、そういう思いばかりが自分の中を支配しているように感じたからなのだろうか。ここ数年は、大きな希望や期待を捨て去ることに気を取られているものの、私がそういう気持ちを抱かなくとも、周囲は私にそれを無言で期待する。何も望まれなくなるのは寂しいが、自分のギリギリの限界を知ることはひどく恐い。そんな私だから、冒頭の言葉の出てくるしたたかな猫と女のモノローグである、佐野洋子画文集『あっちの女 こっちの猫』(講談社)は、なかなか痛いところを突いてくる作品だった。大胆なスケッチは言葉以上に多くを語り、ずんずんと迫ってくる。

 猫のことが書いてある本は、猫狂ゆえ何でもかんでも手に取ってしまう私だけれど、猫の視線がひどく痛くなってしまうことはなかなかない。これを書いている今この瞬間も、愛猫の視線が痛くて痛くて堪らない。かなり眠たげで、だけれど相当不満げな様子で、1メートルほど離れた場所から私の方を見ている。いや、もしかしたら私のことなんかちっとも見ていないのかも知れない。何となくこちらの方向に顔があるだけで、今朝見つけた美味しそうな草だとか、獲物になりそうな小鳥のことだとか、ライバルの黒猫のことだとか、ちょっと頭の悪そうな雌犬のことだとか、そんなことを考えているのかも知れない。

 佐野洋子の作品の中で、女はときどき猫のふりをして眠るのだと言う。何も考えずに済むからと。猫は思う。“おれは人間の真似なんて何一つしたくないのに”と。猫がすり寄っていくと、女は言う“ごはん食べたばっかでしょ”と。ただ、猫はそうしただけ。ただ、女は言っただけ。猫と女は交わることがない。一緒の時間を過ごしているのに。猫も女もしたたかなのに。きっと猫は思ってるのだろう。“おれの方が上だろ”なんて。喉をゴロゴロ鳴らすツボを心得ている私を、都合のいいマッサージ師みたいに思っているに違いない。「可愛い」を連発して、写真を撮りまくる私をうざったく感じているんでしょう?

 こんな思いを全て打ち砕くのは、やっぱり猫の言葉。“放っといてくれ。おれが木もれ日の木の下の椅子で眠っている時は。あの椅子がおれになじむまで、四年もかかっているのに。でも好きにしなよ。あんたは、おれに手出しをする時少なくともあんた自身を、お留守にすることが出来るのだから。人間って、自分に夢中になりすぎるんだもん”…負けました。私の負けです。私が自分の負けを認めたら、猫が近くに寄ってきた。何だ、このタイミング。もしやまるごと全部、お見通しなの?私が今キミのことを書いているのもわかってるの?キミが欲しがってるのがハロゲンヒーターの温もりだってことに、私は気づかないふりしなくちゃいけない。

406266366Xあっちの女こっちの猫―佐野洋子画文集 (アートルピナス)
佐野 洋子
講談社 1999-11

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