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2005.10.17

ケータイ・ストーリーズ

20051010_22008 シュールで悪意に満ちたショート・ショートを収録している、バリー・ユアグロー・著、柴田元幸・訳『ケータイ・ストーリーズ』(新潮社)。さらりと読める適度な短さ、奇妙でユーモアたっぷりの物語の設定、思わずニンマリしてしまう展開、どれもが、読み手をぐいぐい引き込む面白さである。78もの短編は、冷ややかで意地悪。でも、可笑しい。読み進めるうちに、心の奥底に潜む黒い部分が刺激されてしまった気がする。人の手によって作られた物語だからこそ、そんな感情を発見したのだと言い聞かせながら、私は自分の中にある黒い部分を誤魔化す。誤魔化しきれないところは、見なかったことにする。なんて都合がいいのだろう。

 さて、物語の内容を。数が多いゆえ、私の中でツボだったものを書くことにする。「出会い」と「ノック・ノック」について。この2つは、描き方と展開が一緒である。ある人物と、よく知らぬ者との会話で構成されている。少しずつ、よく知らぬ者のペースに呑まれて、真実をねじ曲げられてしまう物語である。例えば、自分の家を他人の家だと言われる。よく知らないのに、10年以上の付き合いだと言われる。悲鳴が聞こえたから、ドアを開けろと言われる。1つ1つはたいしたことではない。けれど、強く言われたらどうだろう。大勢に言われたらどうだろう。悪意が込められていたら…日常には恐ろしいことが潜んでいるのだ。

 もうひとつ、面白い短編を挙げる。文豪作家の作風をモチーフにした3つの物語である。ドストエフスキー、エドガー・アラン・ポー、スティーブン・キング。それぞれの持ち味を生かしつつ、新たな物語が著者の手によって紡がれている。どん底の貧困にあえぐ医学生の悲劇。遠くの町を襲った病の話。陽気に楽しんだ帰り道に迷子になる者の恐怖。どれもが味わい深くて面白い。あまりに残酷で。あまりにも滑稽で。短い数行の文章の中に広がる世界は無限で、想像力をかき立てられる。端的なのに。あっさりしているのに。無駄に語らない凝縮された文章から漂う雰囲気は、とっても心地よい。

 これらの物語は、もともとは携帯で配信されていたもの。日本以外では書物になっていないそうだ。物語を書くにあたって、アメリカ人の著者は東京で驚く光景を目にしたという。それは、目にも止まらぬ速さで親指を動かす、若者の姿である。携帯の画面に見入っている彼らの様子は、著者の想像力を刺激したそうだ。そして、どうやらアメリカと日本では、携帯の使われ方が違うらしい。日常的なアイテムであることに変わりないのだが、アメリカ人にとって携帯は、あくまでも“喋る”道具であるらしいのだ。せわしなく指を動かすことは勤勉さの表れなのか。携帯に見る国民性か。物語を読んだ後では、そういう事柄が少々愛しく思える。

4105334034ケータイ・ストーリーズ
柴田 元幸
新潮社 2005-04-27

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コメント

ましろさん、こんばんは。
一つひとつのすごく短い文章にきっちりとした世界が出来上がっていてすごいって思いました。
1冊の本として78話をまとめて読むより、携帯の配信で1話ずつ読んだほうが楽しめたのでは?とすこし残念です。

投稿: なな | 2005.10.17 23:22

ななさん、コメント&TBありがとうございます!
次の話を楽しみに待ちつつ1話ずつ読んだら、かなりわくわくするかもしれないですね。リアルタイムで読みたかったです。料金がちょっと気になってしまうけれど。
書評で、ユアグロー氏の作品を1日3話ずつ読んでいる方の話があって、その読み方もよいなぁと思っちゃいました。

投稿: ましろ(ななさんへ) | 2005.10.18 20:20

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