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2005.10.03

卒業

20050815_22176 あぁ、この小説は正しい。重松清・著『卒業』(新潮社)を読みながら、私はそう感じていた。小説に正しいも間違いもないのだけれど、“この小説を一言で表すと、次のどれが当てはまるのか答えなさい”なんていう設問があったら、迷わず選ぶ。1)様々なかたちの“卒業”を描いている、2)感動的である、3)心の葛藤を描いている、4)とにかく正しい。だとしとしたら、4である。説教じみているわけでもないし、型どおりの教育論を展開しているわけでもないのに。文章は読みやすいし、登場人物は人間っぽい、感動できるポイントだってある。それでも、私はこの小説を“正しい”と言いたい。もちろん、よい意味合いで。

 4つの物語が共通しているのは、根底にあるテーマと40歳の男性が登場すること。「まゆみのマーチ」では、まもなく亡くなる母を見舞ったことがきっかけで、息子に対する接し方を省みる。「あおげば尊し」では、父親と同じ教師という職業を選んだ主人公が、悩み迷いながら父の最期を見送る。表題作「卒業」では、自殺した親友の忘れ形見の少女から親友に纏わる話を求められて、戸惑いながらも若かった日々を思い出す。「追伸」では、幼い頃に亡くなった実の母に対する思いが強すぎて、今の母との間に確執を抱えている。親から教わったこと。子供に伝えたいこと。悲しみの中から、前へ進もうとする逞しさを感じる物語である。

 あぁ、人間はこんなにも強かったのだなぁ。“正しい”という思いの次に、私はそう感じていた。おのれの弱さを知りながらも、前へ進んでいるように思えたから。ただ、歳を重ねているのとは違う。自分の意志とは無関係に、一歩一歩進んでいく。速度や歩幅は違えども、確実に。若さゆえの間違い、無神経な言葉の数々、口に出さなければ伝わらない思い、ねじれたままの関係…それらは過ぎ去った年月を越えて、難なく取り戻せるようにすら思えた。物語の中では。もちろん、完璧には正せるわけがない。けれど、強い思いは確実に人の心に何らかのかたちで届いている。届くほどに人間は強い。人間の心は。

 きっとその思いは、私の願望なのだろう。強さがまだ自分の中にも残っていることを、信じたいだけなのかもしれない。強くも弱くもある人間から、弱さをかき消したいのだろう。そして、何よりも自分が確実に前へ進んでいるのだと思いたいのだ。多分、甘っちょろいのだろう。自分を正当化したいのだろう。それは、とても愚かなことだ。わかっている。けれど、自分の前にある現実から逃れたくてたまらない。思い通りにいかないのが人生なのかもしれないけれど、心の奥底で“違う”という自分がいる。何かが違う。どこかが違う。こんなことでうじうじしている私は、青過ぎるのだろうけど。

4101349193卒業 (新潮文庫)
重松 清
新潮社 2006-11

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コメント

コメント&TBありがとうございました。
遊びに来ました!

いや~ドアを開けちゃうとはすごい。

うちのももうすぐやるでしょう、、、

今日は冷蔵庫を開けました。。。もう言葉が出ません。
よかったら見に来て下さい

http://blog.goo.ne.jp/pitanlove/

投稿: ぴーたん | 2005.10.04 23:36

ぴーたんさん、コメントありがとうございます!
遊びに来てくださって、嬉しいです。
冷蔵庫だけでなく冷凍庫も…ホントすごいですね。
寒くなってきたので、風邪ひかなければよいなぁなんて思っております。
またお邪魔させていただきます。

投稿: ましろ(ぴーたんさんへ) | 2005.10.05 14:39

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