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2005.10.01

悪意の手記

20050930_108 酷い病気をしたことから始まる生への否定的な思いや、人を殺してしまった過去に対しての複雑に絡み合う感情が描かれた、中村文則・著『悪意の手記』(新潮社)。手記というかたちで主人公が一人称で語っており、彼の抱える重く深い憎悪、虚無、苦痛などが心乱されるほどにじんじん伝わってくる。暗く卑屈で罪深い彼の生き方は、人としてあるべき姿ではないとわかっていても、自分の中に似た色をしたものを感じながら読んでいた。それを実際に行うか行わないかを別にすれば、誰もが抱え得るものではないのか。人とはそもそも、誰もが罪深い生き物ではないのか。疼き出すもやもや。それはきっと、これまで私がうやむやにしてきたものなのだろう。

 主人公の彼が抱えていた憎悪や虚無、生への否定的感情。そういうものを激しく感じる時期というのを、個人差はあれどきっと誰もが経験する。衝動的にも、意識的にも。内にも、外にも。私の場合、外に向けられていたはずの怒りが、気がつけば内に向かっていた。自分のことは棚に上げて、誰も彼もが気に入らない。信じられない。みんな死んでしまえばいい。今度何かあったら、ぶっ殺してやりたい。超ムカツク…心の声でしか言えない愚かな戯言の数々。そして、ふと思った。一人一人殺していたら間に合わない、きりがない、と。あぁそうだ、それなら私が死ねばいいんじゃない?

 そんな思考回路のおかげで、私は誰かをぶっとばすことなく今に至っているのだけれど、自分自身を殺しかけたことは何度もあった。他者への怒りや憎しみが、自分の存在否定に向かってしまったために。ただでさえ、ままならない日常に埋もれてゆくというのに。愚かなことに、私が消えることで全てが解決するのだと信じていた。友人の悩みさえも全て。そんないびつに歪んだ心を持っていた私にとっては、主人公の過ちや生き方を責めたり否定したりできない。幾つもの偶然ときっかけ、内に秘めた衝動、そういうものが重なったに過ぎないと思えてきてしまう。だって、私は人(自分)を殺していたかもしれないのだから。

 ここまで書き連ねてきて強く思うことは、自分の尻の青さ。そして、まだどこかで自分自身を否定し続けている現状。月日が流れてこの文章を読んだとき、若かった自分のことを笑うことが出来るのだろうか。未来に対して何の期待も希望も感じていない私の、30代40代50代なんてあるのだろうか。とても想像できない。いやいや、笑えなくてもいい。その青さも痛みも歪んでいた思考回路も、何もかも全て、抱えながら生きて行けばいい。様々な過ちも罪も一緒に。それに加えて、これからの楽しいこと嬉しいこと。喜びも悲しみも重ねていくのだ。出来るかぎりの範囲で。

4104588032悪意の手記
中村 文則
新潮社 2005-08-30

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コメント

はじめまして。
前からこっそりお邪魔させてもらっていたんですけど、最近紹介されている本が私好みの本ばかりなので、リンク貼らせてもらってもいいですか??

投稿: ユエ | 2005.10.03 01:29

ユエさん、はじめまして。コメントありがとうございます!
リンク、とっても嬉しいです。大歓迎です。
私もぜひお邪魔させていただきたいと思っております。
今後もどうぞ宜しくお願い致します。

投稿: ましろ(ユエさんへ) | 2005.10.03 13:21

やっぱり中村さんは、驚異の新人です。
悪意の手記。あれだけ繊細な文章で、書かれたら許せないやつも許せるかなぁって思いました。でも、許したくない。

投稿: 早乙女 | 2005.11.11 07:48

早乙女さん、コメントありがとうございます!
多分、許してはいけないのですよね…その正しさを、私は主張できるような立場ではないのですが。

投稿: ましろ(早乙女さんへ) | 2005.11.11 21:11

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