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2005.10.12

さよならのポスト

20050930_22037 切ない。もどかしい。やるせない。でも温かい。そんな思いがたくさん詰まった童話集、文・稲葉真弓、絵・スドウピウによる『さよならのポスト』(平凡社)。著者の作品は何冊か読んだことがあるのだけれど、印象が随分違っていた。柔らかくて優しくて、読み心地がさわやか。ぎゅっと抱きしめていたい気持ちになるほどに。描かれている話が、自分の心の中にずっと残っている懐かしい想い出だったらいいのに。私の物だったらいいのに。大好きな人に“あのね、これは内緒にしたい話なんだけど…”そんなふうに言いたいのに。残念ながら当然ながら、これは著者の描いた物語である。著者、初めての童話集だ。

 緑色のポストのある小さな郵便局。そこでじっと手紙が投函されるのを待っている、たった一人の郵便局員“さよならのお話の番人”を進行役にして、様々なかたちの別れの物語が展開されてゆく。そっと届く手紙は、誰にでも語るわけにはいかないけれど、それでも語りたいという類のものばかり。ときには悲しく、ときには寂しく、ときには優しく、そして嬉しく、読み手の心の奥底に響いてくる。ポストに手紙を入れる者達は、誰にも見つからないように、ひっそりとした時間帯にコソコソしている。お話の番人は、あまりにも暇なものだから(手紙は頻繁には来ない)居眠りしている。そういう細かいところも、気に入ってしまった。

 9つの別れの物語から、魅力的ないくつかを書いておく。どれも甲乙つけがたいくらいよいのだが、冒頭で書いた“切ない”“もどかしい”“やるせない”“でも温かい”を全て完璧に満たしている悲しい物語を挙げる。1話目の「だれもいない森」。80年ほど生きてきたふくろうが主人公。少しずつ確実に切り開かれていった森から、次々と動物たちがいなくなり独りぼっちになったふくろうの寂しさがじんじん伝わってくるモノ。自分への手紙が届くのを密かに願う気持ちがあるのに、自分の気持ちを誰かに伝えたいのに、意地をはるふくろうの姿。自ら手紙を書こうと思い立ったときには、もはや文字を忘れている。くーっとなる。あぁ、もうー、と言いたくなる。

 もうひとつだけ。「まてんろう」を。おばあさんと暮らす“まてんろう”という名の猫の物語。やっぱり私は猫好きなので、猫が出てきてしまうと高ぶる気持ちを抑えきれないらしい。その名の由来は、高いビルの間から拾われたから。おばあさんも15歳になる“まてんろう”も、地上の世界から離れたまま生活している。1人と1匹。その暮らしを変える気はない。新しい友人もいらない。必要な物は全てマーケットの主人が届けてくれる。今となっては、昔歩いた道もわからない。こんな、閉ざされた世界。けれど、とびきり親密な理想的な関係。見下ろす周囲の街並みは年月と共に変化しても、1人と1匹は変わらない。この物語の結末、なかなか気持ちよいのだ。

4582832717さよならのポスト
稲葉 真弓
平凡社 2005-08

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コメント

ましろさん、こんばんは。
すごく素敵な物語でしたね。
この先ふとした拍子にこの物語の断片を思い出しそうな予感です。
私も「まてんろう」大好きです。
TBさせていただきました。

投稿: なな | 2006.03.15 22:26

ななさん、コメント&TBありがとうございます!
ホント、これはすごく素敵な物語です。
物語の断片が記憶に刻まれて、ふとした瞬間によみがえる…
それって、とっても幸せなことだなぁと思います。
「まてんろう」のことを今、ちょっとだけ思い出して、嬉しくなっております。

投稿: ましろ(ななさんへ) | 2006.03.17 18:51

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さよならのポスト 稲葉 真弓 「さよならの話」だけが投函される緑色したポスト。私はたった一人の郵便局員。緑のポストに手紙が落ちる「ぽとん」という音が聞こえたら、ポストから手紙を集め、読む「さよならのお話の番人」私が読む8つの「さよならの手紙」 ポストに手紙を入れるのは人間だけじゃありません。ふくろう、猫、ライオン。岩が投函した手紙もありました。そして郵便局員はポストに投函された物語を読み、投函した人・物に思いをはせる。 お話の一つひとつがとても丁寧に書かれていて、周りの風... [続きを読む]

受信: 2006.03.15 22:26

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