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2005.10.05

アンデルセン3つの愛の物語

20050930_075 やわらかな温かさと透明感溢れる文章と、3人のイラストレーターの手によって新たに紡がれた、切なくて美しいアンデルセン童話集。原作・H.C.アンデルセン、文・石津ちひろ、絵・スドウピウ、網中いづる、植田真『アンデルセン3つの愛の物語』(BOOKSPOOKA)。「おやゆび姫」「人魚姫」「マッチ売りの少女」、これらの3つの物語に共通するのはひたむきさと健気さ。誰もが知る有名な童話。けれど、小さな頃に読んで記憶している印象と、この生まれ変わった大人のための愛の物語とでは、少々趣が異なる。アンデルセンに関するコラム&対談も収録しており、アンデルセンという人物の物語に対する真摯さにも、気づかせてくれる。

 「おやゆび姫」の絵を描いたのは、スドウピウさん。緑色を中心に少ない色づかいで描かれた絵は、優しくてとても可愛らしい。ピーコックグリーンという色は、大人向き。新たな気持ちで読んだ物語の印象は、“おやゆび姫って、流されやすいのかなぁ…”というもの。小さくていたいけで生まれたばかりで何も知らない。そんなおやゆび姫が、次々と降りかかってくる運命に翻弄される。それはまるで自分の目の前のことで精一杯で、やりたいことも行く道もわからない、今どきの若者みたいではないか。自分の意志を強く持たないことが、絵にも描かれているし。このぼんやりした表情は、誰かにそっくり。あっ、私か(美しい娘ではないけれど)。

 2話目の「人魚姫」。網中いづるさんが絵を担当。海を中心に描かれた水彩は、想像力がかき立てられる雰囲気。これはすごくいい。荒々しいタッチなのだけれど、淡くて儚くて愛しく感じる。人魚姫の表情がはっきりわかるのはたった1ページだけなのに、いつまでも鮮明に切なく美しく心の中に刻まれてゆく。それはとてつもなく悲しげで胸の奥がきゅうんとなるもの。痛いのだ。でも、ただ痛いのではない。痛いけれど本望。そんな感じがする。泡となって消えてゆく結末だって、ほんのりと光を放っている。人魚の激しく高鳴った情熱は、決して“かわいそう”だけに終わらない。

 3話目の「マッチ売りの少女」。いしいしんじ著『絵描きの植田さん』や江國香織著『号泣する準備はできていた』で好きになった、植田真さんが担当。線の細い絵が、とてもいい。鮮明に描かれた部分と、ぼかして描かれた部分の使い分けが上手い。この物語については、“不幸”という印象が強かったのだが、少女のことを唯一無条件に愛してくれるおばあさんの存在が素敵だ。一人きりで微笑みながら死ぬことなんてあまりに心苦しいけれど、心の片隅でもいいからそんな存在がいるということは、救われる気がした。少女に寄り添うように描かれた物語には、ささやかでほのかな希望があったのだ。

4052024192アンデルセン3つの愛の物語 (Books Pooka)
H.C. アンデルセン
学習研究社 2005-09

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コメント

本屋さんに行ったら、予想以上にアンデルセンの本があって探してしまいましたが、今年はアンデルセン生誕200年なんですね。
可愛らしい絵本になっていました♪
十数年ぶりに読んでみて、小さい頃人魚姫を初めて読んでもらって、泣いてしまった時のことを思い出しました。
懐かしいけれどかえって新鮮で、久し振りに童話を読み返してみるのもいいかなぁって思ったりしました。

投稿: ユエ | 2005.10.10 00:53

ユエさん、コメントありがとうございます!
わぉ。本屋さんで探してくださったのですか?
何だかとっても嬉しいです。
アンデルセン生誕200年だったのは、知りませんでした。もうそんなになるのですね。

人魚姫、いいですよね。とてつもなく切なくなる悲しくも美しいお話。
思い出しただけで、ぐっとくる感じです。
小さい頃に読んだ印象と微妙に違うことに気づくのも、新たな発見があって面白いのだなぁと今回思いました。
他の童話や名作を読み返すのも、よいかもしれないですね。

投稿: ましろ(ユエさんへ) | 2005.10.10 18:51

お話は知っているのに、どんな絵かまったく覚えていない私に新しい想像を与えてくれた本でした。
おやゆび姫ってほんとだ、いまどきの若者みたいだー。
どのお話もよくよく考えてみるとすごいですね。

投稿: りりこ | 2006.05.10 22:03

りりこさん、コメントありがとうございます!
わたしも小さな頃に読んだときの絵って、
全く覚えていませんでした。これから先に残ってゆくのは、
この本の絵なのかもしれないです。
やっぱりアンデルセンって、すごい!と再確認しました。

投稿: ましろ(りりこさんへ) | 2006.05.11 06:45

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