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2005.10.22

ポビーとディンガン

20050412_014 心が疲れた時というのは、切なくも温かさを感じる物語がいい。目に見えるものと目に見えないものが交錯する物語である、ベン・ライス著、雨海弘美訳『ポビーとディンガン』(アーティストハウス)は、私的にはそんな時にとてもしっくりくるような気がしている。舞台となるのは、世界中の夢追い人たちの住むオーストラリアのオパール採掘の町、ライトニング・リッチ。ケリーアンという名の少女にしか見えない大切な友だち、ポビーとディンガンの行方を懸命に捜す兄と町中の人々が織りなす、愛おしい小さな奇跡の物語である。少しずつ妹の心に寄り添ってゆく兄の思いと、その先に待ち受ける悲しみが、静かな余韻をいつまでも残す。

 ケリーアンの心に住む架空の友だち。その存在を、初めのうちは家族すら信じていない。兄であるアシュモルは特に。オパールを採掘することを仕事にしている父親は、ケリーアンを架空の友だちから引き離すことを目的にしてなのか、ただうっかり忘れてしまってのことなのか、ある日ポビーとディンガンをどこかに連れて行き、置いてきてしまう。その後、行方知れずになった2人を捜しに行ったことは、思わぬ災難の引き金となり、家族を町から孤立させる。そんな状況の中でもアシュモルは、病に伏してしまった妹ケリーアンのために、町中の人々に呼びかけて出来る限りのことをする。その方法は、拙くもあまりに健気である。

 “目に見えないものを信じる”ということに対して、馬鹿馬鹿しいと思う人もいるかもしれない。夢見がちだと言う人もいるだろうか。ケリーアンの中にいたポビーとディンガンのような友だちはいなくとも、自分の心の片隅にもう1人の自分自身を置いてはいないだろうか。ほんの少しでいい。考えてみて欲しい。そんな、くだらない。そう笑うかもしれないけれど、私には心の中に住人がいる。自分自身に問いたい時、その声を聞くための存在が。必ずしも聞こえるわけではないその声に、耳を澄ます。できるだけ寄り添う。その行為は、自分の気持ちをよい意味で落ち着かせる。あらゆる私の中の神経が、するっと解きほぐされたような気がする。それが思い込みに過ぎなくとも。

 この物語の中で、ケリーアンがポビーとディンガンのために選んだ歌がある。キャット・スティーヴンスの「wild world」である。歌詞がケリーアンそのものを意味している気がして、私はこの文章を書きながら繰り返し聴いている。細かく言うと、私が聴いているのはMR. BIGバージョンのものだけれど…。歌は、故郷を離れるために男の前から去りゆく愛すべき人へ捧げる内容で、傷ついた心情をやるせなくハスキーな声でエリック・マーティンが歌いあげる。笑顔だけで切り抜けることの難しさと、自分にとって愛するその人はずっと少女のままなのだと繰り返す。物語の結末に、この歌はとてつもなく効果的に彩りを添えているように感じられた。

4901142445ポビーとディンガン
Ben Rice 雨海 弘美
アーティストハウス 2000-12

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コメント

こんにちは♪
気になっていた作品ですが、手に取るきっかけ
がなくて。
ましろさんのレビューを読んで、読んでみようと
思いました。

ねこちゃんかわいいー!!
くまさん乗っけられても動かない!
むしろ見ちゃってる!!v(>▽<)v

投稿: miwa | 2005.10.23 19:04

miwaさん、コメントありがとうございます!
手に取るきっかけになってもらえると、とっても嬉しいです。
実は私、約5年間気になり続けてました。
21世紀の“星の王子さま”という宣伝文句の新聞広告を、今も大事にしております。

猫、いいでしょう(笑)
毎日いじり過ぎて、慣れてしまったみたいです。

投稿: ましろ(miwaさんへ) | 2005.10.24 16:26

今度は成功したみたいです。
よかった♪

投稿: nadja | 2007.08.17 16:12

よかったですー♪
どうもありがとう。

投稿: ましろ(nadjaさんへ) | 2007.08.17 16:27

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ぎゅっと瞼を閉じたら 濃い薄い闇の中心に ちかっと ちいさな宝石がみえる? 両手で耳を塞いだら 身体というトンネルの奥から くすっと笑う ちいさな声がきこえる? それなら あなたにも ポビーとディンガン が みえるはず [ ポビーとディンガン ベン・ライス ] 信じるとか 信じないとか そういうことじゃないんだ 夕食のメニューを考えるように 欲しい洋服を思い浮かべるように イメージする いもうと が みている友達をイメージ... [続きを読む]

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