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2005.09.19

間宮兄弟

20050916_216 もてないけれど温かくて穏やかな兄弟の物語である、江國香織・著『間宮兄弟』(小学館)。恰好悪い、気持ち悪い、おたくっぽい、むさくるしい、だいたい兄弟二人で住んでいるのが変、スーパーで夕方の五十円引きを待ち構えて買いそう、そもそも範疇外、ありえない、いい人かもしれないけれど恋愛関係には絶対ならない…彼らを見知っている女たちはそんな意見を持っている。35歳と32歳の兄弟は、独身で女性と付き合った経験がなく、プロ野球と読書とゲームとビデオ鑑賞を好み、母親を慕い、その教え通りに季節の行事を重んじながら暮らしている。他者との距離をうまく計れない不器用さ、恋愛ナシの生活にも満ちる幸福。そういうものに、愛しさがこみ上げていた。知らず知らずのうちに。

 兄弟はカレーパーティーを開くことを決め、兄はしどろもどろに、弟は半ば強引に、それぞれ女性を招く。恋愛対象には決してなり得ない兄弟について、どこか懐かしい思いと好ましい思いを感じる女性たち。兄弟の部屋は、図書館みたいに本がだーっと並ぶ。たとえば怪盗ルパンシリーズとか、図鑑とか、世界名作全集とか、長年愛読し続けてきたお気に入りの本たちが。その豊かな空間には、たくさんのゲームやマスコット人形や模型などもある。そんなオタクな部屋に、女性たちは特別な親しい感情を抱くのだ。兄弟としては悲しいことに、恋とは違う感情なのだけれど。

 そういう感情を抱かせる人というのは、とても魅力的である。もてるとかもてないとか、そんなこと以上に、人間として基本となる部分のような気がしてならない。兄弟の恋愛は、何とももどかしく無様なのだが、彼らに足りない何かに気づいてゆくうちに、読みながら笑みを浮かべていた。彼らのことが可笑しいというのではなく、自分の中にある彼らと通ずる部分にくすりときてしまったのだった。何しろ私は、彼らの部屋に近い場所でくつろぎ、恋愛に対して憶病で、人間関係の煩わしさを感じつつ、自分の生活空間を何よりも大事にしているではないか。自分ばかりが可愛くてたまらない、そんな気持ちが少々あるのかもしれないのだ。

 物語の中で、ドキリという思いを感じたのは、“この先誰ともつきあえないとしても、間宮兄弟みたいに楽しく暮らせたらいいじゃない”というニュアンスの言葉。彼らの心の中の豊かさを感じるほどに、自分自身の気持ちの浮き沈みを恥じる思いが強くなったのだった。どうして、些細な出来事に振り回されてしまうのかとか、様々な事柄に囚われてしまうのかとか。人間誰もがそうだとしても、他人の目など気にせずにまっすぐに生きられる兄弟の方が、よっぽど一人の人間として素晴らしいのではないかとか。そんなことを感じること自体、あまりに自分に自信がないことの表れなのか。あれこれ思いを巡らしてしまうのだった。

4093874999間宮兄弟
江國 香織
小学館 2004-09-29

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コメント

TBさせてもらいました~。
間宮兄弟の彼女にはなりたくないけど、生き方自体は素敵ですね

投稿: sonatine | 2005.09.19 20:54

この作品、映画化されるようで、ちょっと楽しみにしています。兄弟のお母さん役が中島みゆきなんですって。いい感じ。
TBさせていただきました。

投稿: ざれこ | 2005.09.19 22:41

sonatineさん、コメント&TBありがとうございます!
私もその意見に同感です。生き方は素敵なのだけれど…なんだけど…だけどねぇ…そんな気持ちなんですよね。

投稿: ましろ(sonatineさんへ) | 2005.09.20 19:31

ざれこさん、コメント&TBありがとうございます。
映画化、私もとっても楽しみです!
中島みゆきさんがお母さん役とは。すごくいいですね。ステキ。

投稿: ましろ(ざれこさんへ) | 2005.09.20 19:34

ご無沙汰しています、桜井です。
TBさせて頂きます。

余談ですが、平田俊子さんの「ピアノサンド」を読もうかどうしようか迷っていたので参考になりました。
今度図書館で借りてみます。

投稿: 桜井 | 2005.09.23 01:11

桜井さん、コメント&トラックバックありがとうございます!
「ピアノ・サンド」とってもよいですよ。
ブログの記事、楽しみにしております!

投稿: ましろ(桜井さんへ) | 2005.09.23 16:19

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