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2005.09.06

浄土

20050830_190 まず、先に言っておこう。私は、町田康の作品に何度も挫折している。著者の作り出す言葉の意味が、正直よくわからない。慣れない言葉を読むのに、どうしても時間がかかる…そんな理由から、避けていた。けれど、誰かが面白いというたびに、いつでも気にしていた。タイトルだけなら、全作品言えるほどに。そして、ふと思った。そんなに気になるならば、短い作品から徐々に慣らしてゆけばいいのではないか。もしダメなら、そのときはそのとき。短編集かぁ。それはいいかもしれない。もしかしたら、私でも最後まで読めるかもしれない。そう思って手にしたのは、町田康・著『浄土』(講談社)だった。“THIS IS PUNK!”破天荒なる物語に浸ってみせようではないか。

 ひどいことばかりが続く男の悪足掻きのようなものを描いた「犬死」、“ビバ!カッパ!”という文言に支配された男の向かう先について書かれた「どぶさらえ」、高慢な男の虚飾のはがれる瞬間を待ち望む主人公の話である「あぱぱ踊り」、建て前が存在しないすがすがしくも厄介な街を描いた「本音街」、突如として出現した巨大で恐ろしい生物ギャオスについて書かれた「ギャオスの話」、凶事も吉事も一言で断言し、口にした言葉を目の前にはらりと出してしまう力を持った神の話である「一言主の神」ありふれたオフィスで起きたとんでもなく不気味な事件を描いた「自分の群像」。7編を収録。

 どの物語も一人称の語りで進み、主人公のダメ男ぶりが妙に心地よく馴染んできた。“俺はダメな男だけれど、このダメっぷりもなかなかいいでしょう?案外格好良くないかなぁ。こういうの。あなた、決して嫌いじゃないでしょう?”そう言っているような気がした。それに加えて、著者の独特の言語感覚の斬新さ。不思議と琴線を刺激するのだ。気がつけば、ときめきと感動すら覚えていた。そして、ダメ男と著者が重なりだぶり始めたら、もう私の心はすっかり毒されてしまっていた。あぁ、もう限界だ。屁泥の中に全身を埋めるのもいい。高慢ちきな男の傍で踊ったっていい。ギャオスに踏まれてしまったって…

 いけない。暴走してしまった。冷静沈着の私としたことが。気に入った作品のことを書いて落ち着かなくては。爽快だったのは、「本音街」である。この街では、自分の思うことを正直に話すのがうまく人と交流する術である。そんな街での会話では、普段は心の中にくすぶっているだけであろう言葉が自由に吐き出される。そんなことを言ったら、相手を怒らせてしまうかもしれない。仲がこじれてしまうかもしれない。厄介な揉め事に発展してしまうかもしれない。そういうことを恐れずに、人々は会話する。現実にはあり得ないであろう本音街の世界が、何とも可笑しかった。さりげなく私も、本音を小出しにしてみますか。

4062760800浄土 (講談社文庫 ま 46-5)
町田 康
講談社 2008-06-13

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コメント

こんばんは
この町田節はよかったようですね。
全体にほどよい町田節かと。

ところで、左サイドの『予告された殺人の記録』いいですよね。翻訳とかを感じさせない海外文学の一冊ですね(^.^)

また遊びにきますね。

投稿: 聖月(みづき)(^.^) | 2005.09.07 18:55

聖月さん、コメント&トラックバックありがとうございます。
まさか、コメントを残していただけるなんて思ってもみませんでした。
とっても嬉しいです!感激です!

町田作品。これを機会に、読んでいこうと思っております。聖月さんのレビューを参考にさせてくださいませ。

『予告された殺人の記録』は、翻訳物という感じがあまりないかもしれないですね。
短くてもぎゅっと詰まったところに、魅力を感じます。

投稿: ましろ(聖月さんへ) | 2005.09.08 09:00

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» ◎「浄土」 町田康 講談社 1680円 2005/6 [「本のことども」by聖月]
 久々に読む町田康の短編集である。読み始めて、うひょひょひょ。ええやないか。こんなんええやん。最初の短編「犬死」でいつもの町田節を堪能。ぐふふ、ぐうとか奇妙な音声を微かに発しながら、読み進める評者なのであった。いつもの奇想、いつもの馬鹿主人公、いつもの巧みで新しい日本語の操り。やっぱ康ちゃんしかおらん!ビバ!とベッドの上でビバった評者なのである。  今回やっとわかったことも・・・これまで、町田康の作品を読みながら、どこが本質的に好きなのか言葉になっていなかった評者だったのが、今回やっとわかりま... [続きを読む]

受信: 2005.09.07 18:50

» 町田康のことども [「本のことども」by聖月]
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