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2005.09.16

黒猫ネロの帰郷

20050916_223 右前足だけが白い、ある黒猫の愉快な活躍と哀愁の晩年を描いた、エルケ・ハイデンライヒ著『黒猫ネロの帰郷』(文藝春秋)。めっぽう気が強いくせに、友人や妹をとてもよく可愛がる、どこか憎めないイタリアの農園生まれのボス猫ネロ。そんな、行くところ敵なしの黒猫ネロにも、老いは確実にやってくる。ドイツにて情愛たっぷりの育ての親との暮らしを続けるのか、懐かしい生まれ故郷のイタリアでの安らかな老後を選ぶのか…ネロは悩んだ末、一大決心をする。読み終えた後のじんわりとした温かさが、たまらなく心地よい大人のための物語。ネロの生き様は、なかなか格好良い。

 黒猫ネロ。彼は、イタリアで縁起が悪いと言われている11月17日の金曜日に生まれた。“黒”という意味の“ネロ”と名付けられ、自ら人生をきりひらく勇敢な猫へと成長してゆく。生まれてわずか6週から、怖いもの知らず。周囲に威張って“殿と呼べ!”だなんて小生意気に命じ、“ドン・ネロ・コルレオーネ”という名を定着させたりもする。けれどネロの立ち振る舞いは、まさにその名にふさわしく、雄の中のオス猫だった。母猫を敬うことを忘れず、斜視の妹のことを心配し、友だち思い。農園にいるどの生き物たちよりも、逞しく優しく勇ましい。どの生き物たちよりも、貪欲でもある。

 ネロは、斜視の妹猫と共に、農園の傍の別荘に来ていたドイツ人夫妻の飼い猫になることを決め、旅立つ。居心地のよいふかふかのソファーに、クッション、温かなミルク、おいしいソーセージ、自分のことを夢中で可愛がってくれる夫妻…農園では味わえないであろう豊かな暮らしをネロは手に入れる。夫妻は、ネロたちのことを際限なく大事にしてくれ、その思いに答えるように、ネロは可愛がられる術をどんどん身につけてゆく。そして、新しい土地でも、“ドン・ネロ・コルレオーネ”の名を轟かせ、ネロは猫たちの中心にいつもいる。恋人との別れ、妹の死…そんな悲しい出来事もいくつか経験する。

 人間にしても、猫にしても、“老い”というものに逆らうことは難しい。考えてみれば、猫の一生というのは、人間のそれと比べて遙かに短いものである。私の1日よりも、ずっとずっと長い24時間を過ごしているのだとしても。10年生きれば、もうきっと下り坂のみなのではないか。そう感じるのは、愛猫が10歳を超えたからだろうか。日々を一緒に暮らす愛猫の“老い”というものを目の当たりにして考えるとき、これまでの愛おしい時間を感じずにはいられない。そうだ、ネロもきっと…ふいに、物語の結末が柔らかな熱を帯びてくる。ネロが選んだ選択肢。それは、最も愛おしいものを選んだ結果なのかもしれない。

416316510X黒猫ネロの帰郷
Elke Heidenreich 畔上 司
文藝春秋 1997-01

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