« ないもの、あります | トップページ | コラージュな午後 »

2005.08.26

きよしこ

20050807_020 優しくって暖かくって愛おしい物語、重松清・著『きよしこ』(新潮文庫)。著者とよく似た、吃音の少年が主人公。思ったことを何でも話せる友だち“きよしこ”を自分の中に置いていた少年の、小学1年から大学受験までを描いた物語である。様々な人との出会い、別れ、関わり合いの中で、少年の心は少しずつ強く大きくなっていく。はじめに出てくるきよしこの言葉は、ずっと少年の奥深くにあったように思える。“(省略)伝えることはできるんだ。それが、君がほんとうに伝えたいことだったら……伝わるよ、きっと”というもの。伝えようとする気持ちがなければ、誰にも届かない。分かり合えない。そんな当たり前のことを、私は避けてきていなかっただろうか。

 少年の吃音について、周囲は勝手なことを言う。少年の気持ちを無視して。がんばろうね、気にするな、くじけるな、堂々として、恥ずかしいことじゃない…そんな言葉を口にする人々は、決まってすらすらとなめらかに話す。そして、少年が参加したセミナーでは、“同じ悩みや苦しみを分かち合って、友情を深めてください”なんて言う。考えてみれば、よく聞く言葉である。けれど、あまりにも無責任な言葉でもある。寄り添っているつもりの言葉というのは、恐ろしい。心に刺さるのだ。悩みを背負って苦しみながら生きる?何それ?意味わかって言ってるの?少年と一緒に腹を立てた私は、しばし自分を省みて恥じる。自分の身勝手さに気づいて。

 読み終えたときに込み上げてきた熱い思いが、暗いものに変わってきてしまったので、話題を変えよう。4話目の「北風ぴゅう太」である。作文が得意な少年は、お別れ会の劇の台本を書くことになる。転校ばかりでクラスメイトとの思い出の少なさに落ち込む少年。そんな中、難しい手術を控えた娘のいる教師は言う、“今日は一生のうちでたったいっぺんの今日なんじゃ、明日は他のいつの日とも取り替えっこできん明日なんじゃ、大事にせえ。いまを、ほんま、大事にしてくれや”と。何となく流されてゆく毎日を過ごしがちな私は、またまた恥じる。もしかして無駄に生きてるのかな、私は…。あぁ、やっぱり暗くなる。

 冒頭で、“優しくって暖かくって愛おしい物語”と言いつつ、どうしてこんなに暗くなっているのだろう。こんなはずじゃなかったのに。もっと、熱くなった気持ちを語ろうと思っていたのに。私をそうさせているのは、きっと少年の姿に心を動かされたからだ。自分の生き方を、いつまでもくすぶっている心に秘めたものを、何とかしなければならないと思わせるほどに。少年が生きてきた日々と同じように、私がこれまで過ごしてきた時間は、私だけにしか経験できないものであったはずなのに。私は、あまりにもそれをぞんざいにし過ぎてきた気がしたのだ。そして、そんなことを思う今日だって、かけがえのないひとときに違いないのに。

4101349177きよしこ (新潮文庫)
重松 清
新潮社 2005-06

by G-Tools

もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…
にほんブログ村 本ブログへ←クリック、お願いしてもよいですか?

|

« ないもの、あります | トップページ | コラージュな午後 »

26 重松清の本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

sonatineもこの本、大好きで、図書館で読んだにもかかわらず買っちゃいました。
買ってからも何度読み返したことか…。

投稿: sonatine | 2005.08.26 22:02

sonatineさん、コメントありがとうございます。
私もこれから買います!重松清さんの作品を読破したい気分です。

投稿: ましろ(sonatineさんへ) | 2005.08.26 22:13

はじめまして。遼と申します。
私も重松さんの作品が好きで、よく読んでいます。
確かに、“優しくって暖かくって愛おしい物語”と思う一方で、呼んで何かを考えずにはいられない、自分を省みずにはいられなくなる感じがします。
このきよし少年に自分なら何と言葉をかけるか、それは彼の心を無視した無責任な言葉になっていないか。
「心に迫ってくる」と言えば良いのでしょうか…。

稚拙ながらトラックバックさせていただきます。お邪魔しました。

投稿: | 2006.04.21 20:33

遼さん、はじめまして。
コメントありがとうございます!
トラックバックされていないようですが…?
こちらの不具合でしたら、ごめんなさいデス。

「心に迫ってくる」というの、なんとなくわかるような気がします。
言葉というものの重みとか、それが与える影響とか。
何気なく出てしまう言葉に、もう少し責任をもたなくっちゃ、
なんて思ったりもしてしまいます。
きっと、気軽にさらりと読んではいけない作品なのでしょうね。

投稿: ましろ(遼さんへ) | 2006.04.22 13:01

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/5647710

この記事へのトラックバック一覧です: きよしこ:

» 「きよしこ」重松清 [AOCHAN-Blog]
タイトル:きよしこ 著者  :重松清 出版社 :新潮文庫 読書期間:2005/11/18 - 2005/11/19 お勧め度:★★★★★ [ Amazon | bk1 | 楽天ブックス ] 名前はきよし。君によく似た少年。言葉がちょっとつっかえるだけ。話はある聖夜、ふしぎな「きよしこ」との出会いから始まる。たいせつなことを言えなかったすべての人に捧げる、少年小説。月一重松本継続中。今回は「きよしこ」です。連作短編集。重松清で「きよしこ」か、著者自身の話?と思い読み始めましたが、その通... [続きを読む]

受信: 2005.12.06 11:57

» きよしこ [見知らぬ世界に想いを馳せ]
「きよしこ」(重松清・新潮文庫)  またまた重松清です。白石きよしという少年の物語です。父の転勤のため転校を繰り返し、吃音のため話すのが苦手。そんな少年の成長のいくつかの時期を描いています。  読んで一言。いいものを読んだ。読んだ後、すがすがしさとともに切ない感じも残っていました。転校を繰り返す中で出会った様々な人との関わりと少年の心。少年は決して器用ではない。でも、不器用だからこそ心に届く。  冒頭のクリスマスの前に知った「きよしこ」という存在。イブの晩、その「きよしこ」との会話... [続きを読む]

受信: 2006.04.22 20:45

» きよしこ (新潮文庫) 重松 清 [本を読もう�U]
少年は、ひとりぼっちだった。名前はきよし。どこにでもいる少年。転校生。言いたいこ... [続きを読む]

受信: 2007.09.21 08:04

« ないもの、あります | トップページ | コラージュな午後 »