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2005.08.23

羽の音

20041204_041 出社拒否の姉と登校拒否の妹のスローライフな日々を描いた、大島真寿美・著『羽の音』(理論社)。両親の離婚がきっかけで、姉は独立を宣言して処分するはずだった家そのものを要求した。妹はその姉と繋がることを決め、姉と妹の2人の生活を始めた。それから3年。生活費や学費は出してもらっての独立であるが、父親にも母親にも別の家庭がある今となっては後戻り出来ない暮らしだ。妹の語りで12月1日から31日まで、物語は進む。順調で快適だったはずの姉妹の生活に、ふっと舞い降りてきた衝動。それは、あまりに些細である。こういう時間があってもいい。むしろ、あるほうがいいのかもしれない。そんなふうに思える、大切で必要な時間。

 まず、妹の衝動から。きっかけはテレビである。“テレビが映らなくなっていた”ただそれだけのこと。アンテナに何か不具合が起きたのかもしれない。もしくは、アンテナとテレビを繋ぐ配線がおかしくなったのかもしれない。とにかく、家の外との関わりを断たれてしまった。そして、連鎖反応のように、学校へ行く気が失せてしまう。妹と学校を繋ぐ線は、相当弱っていたのだろう。あまりに、あっけなく簡単にぷつんと切れたのだから。けれど、弱くなっていなくても切れることはある。きっかけは、あくまでもきっかけにすぎない。そうなった理由は、本人すらわからないこともあるのだ。

 そして、姉の場合。その衝動は、物語の後半にさしかかるまで明らかにはされない。妹との違いは、ぷつんと切れた後もこの先のことをしっかりと考えている点である。立ち止まってしまったように見えながらも、自分の行くべき場所を見据えているのだ。暗いリビングで何年も前にやり倒したゲームをしていようと、婚約者を避け始めようと。姉妹は、それぞれのペースで、今いる場所からもがいているのだ。“後で後悔したって、これは選択じゃなかったんだから仕方ない。これしかなかったからこうしてるってことに後悔、できないじゃない”そんなことを言いながら。

 それから、この物語の中で印象深いのは、“フニクリ・フニクラ”の歌である。妹の友人が、彼女の絵を見て言う。まるでフニクリ・フニクラの歌みたいだと。幸せなのか不幸せなのかわからずに、地獄の釜みたいな火山を見に行きたいのか行きたくないのかもわからずに、そのくせ、さあ見に行こうと楽しげに歌っているような、そんな歌。その歌は、彼女の中で変化して別の意味合いとなって、効果的に物語を彩っている。私は、手元にあったイタリア語バージョンのフニクリ・フニクラを聴いてみた。あぁ、そうか。そうだったのか。彼女が得たであろうものを、何となく感じたような気がした。なかなか勇ましいのだ。

4652071981羽の音
大島 真寿美
理論社 2001-05

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コメント

七生子です、こんにちは。
繊細で透明感が漂う独特の大島作品の世界、私も大好きです。
哀しいような切ないようなラストシーンが印象的でした。
そう云えば、次第に色調を変えていくフニクリ・フニクラの歌が流れていましたね、、、。
また冬になったら、再読してみたいお話です。

投稿: 七生子 | 2005.08.24 12:17

七生子さん、コメント&トラックバックありがとうございます!
本当、繊細で透明感漂う世界ですよね。
作品を読めば読むほど大好きになっていく作家さんです。
物語と同じ12月に、私も読もうかしらと思います。

投稿: ましろ(七生子さんへ) | 2005.08.25 07:59

こんにちは。トラックバックさせてもらいました。
なんか、スローライフって感じでしたねえ。空気が気持ちよくって、なんかすっきりしました。フニクリ・フニクラもすごく気になってます。一度聴いてみたいなあ。

投稿: ざれこ | 2005.09.01 17:09

ざれこさん、コメント&トラックバックありがとうございます!
スローライフ、いいですよねぇ。って、私も結構なスローライフを送ってることに最近気づきました。
フニクリ・フニクラ、イタリア語バージョンは強烈ですよ。笑っちゃうくらいに。

投稿: ましろ(ざれこさんへ) | 2005.09.01 18:20

はじめまして。静かで素敵な本でしたよね。そっかあ。確かに、あの透明感は、文体だけではなくて、冬の季節感でもあったんですね。今はじめて気づきました。来月もう一度読んでみようかなあ。TBさせていただきました。よろしくお願いします。m(__)m

投稿: ゆうき | 2005.11.09 00:06

ゆうきさん、コメント&TBありがとうございます!
実は、はじめましてではなかったり…(笑)
大島さんいいですよね。とっても。全体に漂う透明感を、季節と共に再び感じたいと私も思っています。
今後もよろしくお願い致します!

投稿: ましろ(ゆうきさんへ) | 2005.11.09 15:56

ごめんなさい!クッキーがなかったので、てっきりコメントするのは初めてだったかと思ってしまいました。もちろん、こちらにお邪魔するのは、初めてでは全然ありません(笑)。これからもよろしくお願いします。

投稿: ゆうき | 2005.11.10 23:13

いえいえ、そんな。気になさらなくてもよいですよ。
私もまたゆうきさんのところにお邪魔しますので、どうぞ宜しくお願い致します!

投稿: ましろ(ゆうきさんへ) | 2005.11.11 21:02

ましろさん、こんにちは!
こちらにもコメント&TBさせていただきます。

時間に追われてあくせくしてしまいがちな毎日を
時々切り捨てて遮断してしまうことがあります…。
この姉妹のように何日もってわけにはいきませんが(笑)
大島さんの透明感のある文体が冬の冷たい空気と相まってさらに臨場感増しました。
とても好きな作品です。

投稿: リサ | 2006.01.31 09:37

リサさん、コメント&TBありがとうございます!
今の季節に読まれると、きっとぴったりしっくりくる物語ですよね。
日常を切り捨てて遮断したくなる時期。そういう時間って、必要なんでしょうか。
その真っ只中にいるときに、“あぁ確かに必要だよ”ってわかったら苦しさがやわらぐのに…
そんなことをつい思ってしまう、甘ちゃんであります。

投稿: ましろ(リサさんへ) | 2006.01.31 15:02

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