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2005.08.06

こうちゃん

20041121_031 どこから来たのか誰一人知らない。けれど、誰もが知っている。そんな不思議な存在のこうちゃんと私の物語、須賀敦子・文、酒井駒子・画『こうちゃん』(河出書房新社)。あまりに美しく並ぶ文章と、異国を思わせる繊細な画に惹かれて手に取った。ひらがなが多く使われているせいか、全ての言葉はとても柔らかく、心のひだにすうっと染み入ってくる。言葉は、なんて美しいのだろう。そして、なんて儚いのだろう。私が話している言葉も、こうして書いている文章も、恥ずべきくらいに醜く汚れたものなのではないだろうか。言葉というのは、使う人の心を映すものなのではないのか。そんな思いが私の中に溢れてきた。(※以下、思い出と妄想に耽っております)

 こうちゃん。彼はきっと、読み手の心の中に、思い出の中に、あるいはすぐそばにいる。私のそばにも、きっといる。それなのに、私ときたら、目の前に映るものに気をとられて、すっかり彼のことを忘れてしまう。かすかな音を遮るように、大音量で音楽を聴いてしまう。彼は、私に語りかけてくれているのに。彼は、ずっと待っていてくれるのに。だから、こうちゃんは、一人きりでくつくつ笑う。一晩中、一人きりで泣き続ける。しんとして、高く低く歌い続ける。それでも私は、彼に気づかない。そんな私の身勝手を、私の過ちを、彼は許してくれるのかな。私の目に映らなくても、私の耳に届かなくても、こうちゃんは小さく明るく笑っていてくれるの?

 こうちゃん。私の中の彼は、ブルーの目をしている。柔らかなうす茶色をした髪が、そよぐ風に揺れている。私が彼の視線を感じて振り返ると、優しく微笑んでくれる。そう、彼は5歳。混血の少年だ。幼き頃の私の記憶が正しければ、彼はそんな容姿をしている。たった2年間の思い出。たった5歳の頃の記憶。けれど、いつまでもこびりついている確かな映像。『こうちゃん』に描かれている画が、異国を思わせる少年だったからなのか、それとも私の中にいるこうちゃんが、偶然にもそうだったのか。私は、どんどんわからなくなってゆく。こうちゃんを思い浮かべるほどに。記憶の中の少年を思い浮かべるほどに。

 あぁ、私は夢を見ていたのだろうか。こんなにも懐かしいのはなぜだろう。こんなにも悲しくなるのはなぜだろう。心がきゅうんとなるのはなぜだろう。私が彼を思い出すように、彼も私をときどき思い出してくれるだろうか。あぁ、なんて傲慢な心。やっぱり、私は自分の言葉を恥ずべきなのだろう。“こうちゃん、灰いろの空から降ってくる粉雪のような、音たてて炉にもえる明るい火のような、そんなすなおなことばを、もう わたしたちは わすれてしまったのでしょうか”著者の言葉が優しく響く。もっと、たくさんのものに耳を傾けるよ。もっと、大切なものを胸にしまうよ。そう思えた気持ちを、大事にするよ。

4309016219こうちゃん
酒井 駒子
河出書房新社 2004-03-11

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コメント

はじめまして。
ましろさんの書く文章好きで何度かお邪魔していました。
ましろさんの「お気に入り本」の「こうちゃん」を見て、表紙が大好きな酒井駒子さんだし、これは読まなければ!って思いました。
ましろさんの文章、こうちゃんの続きを読んでいるようでした。素敵です。
TBさせていただきました。

投稿: なな | 2005.09.03 14:20

ななさん、コメント&トラックバックありがとうございます!
わぁ、来てくださっていたのですね。とっても嬉しいです。
酒井駒子さんが大好きでしたか。素敵な絵ですよね。
あまりにうっとりしてしまい、こんな妄想文を書いてしまいました。お恥ずかしいかぎり。
行方知れずの少年からの手紙を、密かに待ち続ける日々なのデシタ…

投稿: ましろ(ななさんへ) | 2005.09.03 19:18

おひさしぶりです。こんばんは!
昨日、こちらにリンクをさせてもらった記事を公開したのでTBを送ったのですが、どうもまたうまくいかなかったようです。FC2blogとcocologは相性が悪いのでしょうかねwそんなわけで、リンク報告のコメントです。

須賀さん(おそらく)唯一の創作されたお話ですよね。とても好きな空気感でした。
やっぱり須賀さんの書いた長編も読んでみたかったです。
最近は「須賀敦子全集」が文庫化されていますね。
まだ読んだことのない文章がたくさんあるので、ぜひ買いそろえてみたいななんて思っています。

投稿: 大葉 もみじ | 2007.11.21 23:01

もみじさん、コメントありがとうございます!
ここのところ立て続けにFC2のTBをはじいてしまっているようで、
本当に申し訳ありません。
スパム対策はしていないのに、うーんなぜだろう・・・?
またお時間のあるときに送っていただけると有難いです。

「こうちゃん」。いいですよね。
読むたびにうっとりとその世界に入り込んでしまいます。
わたしも文庫化された全集、いつか買いそろえたいと思っています。
なかなか実現できないのですけれど。いつになるやら。

投稿: ましろ(大葉もみじさんへ) | 2007.11.22 08:51

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こうちゃん須賀 敦子 酒井 駒子 須賀さんが残した詩。そして雰囲気ぴったりで挿入されている酒井駒子さんの絵。ゆっくりと流れる時間。ひらがなが多い優しい言葉。すごく素敵な文章です。そして酒井駒子さんの絵がぴったりとはまってる。暑い夏の夕日や寒い冬の朝など、子...... [続きを読む]

受信: 2005.09.03 14:21

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