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2005.08.04

れんげ野原のまんなかで

20050711_061 お客さんの少ない図書館が舞台のミステリ、森谷明子・著『れんげ野原のまんなかで』(東京創元社)。様々な事情から、秋庭市のはずれに建てられた秋庭市立秋葉図書館。立冬近くから春にかけて、季節の移り変わりと共に物語は展開してゆく。登場する司書たちの本に対する熱い気持ちや、知識の豊富さ、頭の回転の速さに圧倒されながら、夢中になっている自分にふと気づく。図書館という場所は、こんなにも魅力溢れるところだったっけ。徒然なるままに読書に耽る者にとっては、たくさんの本に囲まれているという環境が何とも羨ましく思えた。

 この本の中でのミステリは、ほんのりとしている。とてもいい色づき方である。1話では、職員の目を盗んで閉館後の図書館に居残ろうとする少年たちの謎。2話では、図書館の本を使った暗号メッセージの謎。3話では、お客さんの個人情報の書かれたメモの謎。4話では、秋葉家の雪女の謎。5話目では、紛れこんだ1冊のよそもの本の謎。簡単に書くとこんな感じである。大きな事件の起こるミステリが苦手な私には、ちょうどいい佇まいの謎が心地よく感じられた。司書たちの謎に対する細やかな心遣いも、気持ちがいい。穏やかで朗らかで温かいのだ。きっと今、α波が出ているはず…

 登場人物の魅力に、もう少し触れておかなくてはいけない。物語は、一番下っ端の司書の文子を中心に描かれているのだが、彼女の周囲をがっちり固める先輩司書が実に頭脳明晰である。自分一人だけ謎の根っこをつかんで少々勿体つけるのは、読み手側としてはあまり好ましい印象を残さないのだけれど、謎に対する対応の仕方は紳士的である。誰に対しても一人の人間として接しているように感じられたし、先に述べた気配りが繊細に思えた。私は、思わず北村薫氏の<円紫さんと私>シリーズの円紫さんを連想していた。シリーズ化されている分、愛着があるせいか、円紫さんの方に惹かれてしまうのだが。

 それから、図書館という場所についても書いておこう。私は、頻繁に利用しているのだが、毎回行くたびに新しい発見がある。先日は、微妙な音量で音楽がかかっていることに気づいた。無音のイメージが強かったので、これにはとても驚いた。これまで、“静けさに満ちていて時間の流れがゆったりしている場所”だと思っていたのだが、最近の図書館というのは変わってきているのかもしれない。私の利用している図書館は、リラックスできるサロンの雰囲気に近い。あぁ、すぐにでも図書館に行きたくなってきた。“図書館のはしご”というのもしてみたい。あれこれ比較してほくそ笑むのもよい。この魅力ある場所に閉じこめられるのも悪くない。

448801710Xれんげ野原のまんなかで (ミステリ・フロンティア)
森谷 明子
東京創元社 2005-03-01

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コメント

こんにちは。
この作品集はとても気に入ってます。日常の謎ということで、どうしても北村薫と比較されがちですけど、登場人物の描き方が生き生きしているので、これはこれでとても良い雰囲気の作品になってると思います。

シリーズ化、考えてないんでしょうかね~。

TBさせていただきました。

投稿: おおき | 2005.08.07 21:41

おおきさん、コメント&トラックバックありがとうございます。
私も、この作品はこの作品でよいと思います。北村作品のファンなので、どうしても比べてしまいますが…。
日常の謎を描いた作品というのは、なかなか心地のよいミステリなので、もっともっと読みたいです。シリーズ化、切に願いたいです!
私からも、トラックバックさせてくださいませ。

投稿: ましろ(おおきさんへ) | 2005.08.07 23:01

TBありがとうございます。
そうそう、作品のタイトルにもなっている「れんげ畑」が水田になってしまうかも、という最後はなんだかなぁ、ですよね。
まさか、続編は「水田の真ん中で」じゃないでしょうね(笑。
秋葉図書館の悩みは、図書館の光を求めて集まる虫たちだった。夏の朝、職員がまずしなければならないことは、エンテランスに散らばる、虫たちの死骸の片づけだった・・。
「あぁあ、二年前はれんげ畑で、市の名所だったのに・・」この三年ですっかりベテランになった(つもりの)文子は、ほうきを片手にぼやくのだった・・・。

投稿: すの | 2005.08.12 16:39

すのさん、コメントありがとうございます!
「水田の真ん中で」(笑)タイトルに惹かれて読まれることはなさそうですね。
でも、すのさんバージョンの続編は、かなり読みたいです。虫たちの死骸の片づけから仕事が始まるなんて…ふふ。カナブンがうじゃうじゃ転がってそうですね。ベテランになったつもりの文子のぼやきが、私にも聞こえてきそうです。

投稿: ましろ(すのさんへ) | 2005.08.12 17:01

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