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2005.07.18

つきのふね

20041017_047 ちゃんとした大人になれるのかな。ちゃんと生きてゆけるのかな。未来なんかこなければいいのに…思春期に誰もが抱くであろう将来への不安、葛藤、焦燥感。壊れやすい心の危うさや脆さを描いた、森絵都・著『つきのふね』(講談社)。児童書ということもあって、少女が思わず手にとってしまいそうな可愛らしい表紙。乙女心を刺激されて読み始めたのだが(単行本)、予想外にどきりとさせられてしまった。もちろん、ほのかな感動と、胸をしめつけるきゅんとしたかすかな震えも。著者の作品を読むのならば、児童書からがいいかもしれないと思って大正解だったようだ。

 人間という生き物でいることに疲れてしまった主人公の語りで物語は始まる。咲いてはしおれ、芽吹いては枯れてゆく潔い植物の一生を羨ましく思う。どうしてそういう気持ちになってしまったのか。その答えは読み進めていくと、次第にはっきりとわかってゆく。物語の軸となっている一番の親友だったはずの少女とのことは、あまりにもどかしい。相手のことを思い合う姿と生きることにもがく姿は、何て素敵なのだろう…そんなことを真っ先に思った。その中には、もちろん、若さゆえの過ちや身勝手さがある。けれど、輝いて見えた。

 そして、もう1つの軸となっているのは、主人公を助けた青年のこと。主人公は、青年の家に居場所を求めて通い続けているのだが、彼は物語が進めば進むほど心のバランスを崩してゆく。人類全てを救うための巨大な宇宙船を作るべくして。バラバラになってしまった彼の周囲の人々を、再び1つにするために。周囲のSOSに敏感に気づくことができるのに、自分のSOSには気づかない。気づかないふりをしているのかもしれない。苦しくて切なくてやりきれない思いを、必死で堪えているのかもしれない。彼だけでなく、きっと多くの人たちが。

 物語はよい方向へ進む気配を残して終わる。かつて青年が、心の病を抱える友人に宛てて書いた幼き頃の手紙の文面で。ひらがなばかりで書かれた文章は、ずしんと胸に響く。“ぼくわちいさいけどとうといですか。ぼくはとうといものですか?”。人間は、ちっぽけで弱いもの。一人の力は、とても小さい。もちろん、その中には強い部分もあるだろう。そして、一人一人が皆尊い存在。そんなつい忘れがちな当たり前のことを思い出させてくれる言葉である。尊いもの。なくてはならないもの。愛すべきもの。信じたいもの。いつまでも大切にしたい物語だ。

404379102Xつきのふね (角川文庫)
森 絵都
角川書店 2005-11-25

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コメント

ちゃんとした大人になれるのか、という悩みは昔僕にもありました。そいでもってちゃんとした大人に成りきれてない今も同じような悩みを抱えています。そもそも何をもって「ちゃんとした」といえるのかというのも疑問ですよね。そいで「ちゃんとした」は実は大勢の人間の単なる差別意識に根ざした偏見ではないか、とか。人間としていきるということの根幹に瑕疵があるのではないかということに気付くのも思春期のころかもしれませんね。出会いがあって別れがあって。宇宙船を作る青年は人類の何を救おうとしていたのでしょうか。自分のことすら救えないのに人類を救おうというのは殆ど不可能だと思いますが、個人的には非常に共感が持てます。そして最後の「ぼくはちいさいけれどとおとい」という言葉はとてもいいですね。誰もがそれを認め合うような新しい時代の風がくることを期待してます

投稿: るる | 2005.07.19 15:46

るるさん、コメントありがとうございます。
「ちゃんとした大人」って、難しいですよね。いろんな意味合いで。他者がそう認めてくれても、自分がそう思えなければダメだろうし。基準は人それぞれでしょうし。私は、言葉に囚われずに、やましいところなく堂々と生きられたら、それでいいのかなと思っているのですが、考えてみればそれもまた難しいことなのかもしれませんね。
「ぼくはちいさいけれどとうとい」は、いい言葉だと私も思います。誰もがそう思い合えるとき、生きる意味も変わるような気がします。

投稿: ましろ(るるさんへ) | 2005.07.19 16:33

こんにちは。
近頃森さんの本ばかり読んでいる柊です。
でも「つきのふね」は図書館に蔵書が無いようで…。
ああ、感想を伺っていると無性に読んでみたくなります!
近いうちに、この本を手に取れることを願ってます。
柊は今、森さんの「宇宙のみなしご」を読書中です…。

投稿: | 2005.07.19 18:03

柊さん、コメントありがとうございます。
柊さんの記事に刺激されて、森さんの本を読み始めたましろです(笑)。
私の通っている図書館には、一番読みたかった「いつかパラソルの下で」と柊さんが読書中の「宇宙のみなしご」はないのですよ。
なかなか上手くいかない巡り合わせですね。
今後も、森さんの作品を読んでいきたいと思っております!

投稿: ましろ(柊さんへ) | 2005.07.19 20:28

人間は弱くて、だけど誰かのために強くなれる。
気持ちが弱くなった時に読みたい本です。
この本が初森さんって幸せですね。
森さんの本、どれもこれも好きです。全部読んでしまうのがもったいなくてチビチビ読んでます。

投稿: なな | 2006.02.02 22:17

うんうん。いい出会いのはじまり、だったかもしれないですね。
私もチビチビ読んでおります。
今日、手を伸ばしかけて止めました(笑)
いつになったら読破できるんでしょう…

投稿: ましろ(ななさんへ) | 2006.02.03 21:22

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