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2005.07.13

袋小路の男

IMG_0058 出会ってから12年。あまりにも長い片思いを描いた、絲山秋子・著『袋小路の男』(講談社)。高校時代から30代まで。袋小路に住んでいる1つ年上の小田切に、ジャズバーで出会い、つま先まで震えるほどの勇気をふりしぼっての挨拶をする日向子。パシリをさせられても、名前を覚えてもらえなくても、約束をすっぽかされても、一人の男性を想い続ける彼女に思わず自分自身を重ねてしまった。私がそれ程までに長く、誰かを想い続けたことなどないし、強く見つめたことすらないのに。

 この本、3つの話からなる。「袋小路の男」は、日向子の視点で最初から最後まで語られる。2話目の「小田切孝の言い分」では、1話目で明らかにされなかった日向子に対する小田切の思いがわかり、様々なことに対して葛藤していることを知ることができる。実に複雑な心もちの男である。その勝手さ、気まぐれさが憎めず、とても愛しい。3話目の「アーリオ オーリオ」は、2人とは離れた話なので詳しくは書かないが、叔父と姪のやりとりが心地よい話。タイトルは、パスタの名前からきている。

 さて、話を戻して一人の男性を想い続ける日向子について。小田切のことを想い続ける中、それなりに誰かにときめいたり、誰かと付き合ったりしてみる。ずっと東京に住み続ける小田切と離れて、大阪に住んだりもする。けれど、どんなに離れていても、空白の時間があっても、日向子の中ではそれらは浮気でしかなかった。本命は常に小田切だったから。会いたいと願わなくても、月を見ながら小田切が生きていて元気であることを願った。こういう見返りを求めない謙虚な気持ち、私はとても好きだ。ぜひ見習いたいもの。

 恋人未満家族以上。そんな日向子と小田切の関係は、言葉にするのは難しい。恋とセックスとお金、はっきりしない2人の関係以外の話しかできない。あなたにとって、私とは何なのだろう。日向子は、飽きずに呆れることなく、ただ小田切を想う。切実に。そして、自分のできる精一杯のことをする。もちろん、失敗もある。清いだけではない。ケンカだってする。そういうことの積み重ねが、きっと強く長く続く想いを支えていくのかもしれない。私は、女であるから、日向子側の気持ちばかりを追ってしまったけれど、男性だったら小田切側に立って読むのだろうか。歯がゆくてもどかしいこの本、とっても魅力的であると思う。

4062758849袋小路の男 (講談社文庫 い 113-2)
絲山 秋子
講談社 2007-11

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コメント

こんにちは。トラックバックいきなりごめんなさいね。
ほんま、歯がゆくてもどかしいですよね。身に覚えはある私ですが、
12年はしんどいなあ、と思いました。

ましろさんの文章ってなんか優しくて、居心地いいです。また寄らせて下さい。

投稿: ざれこ | 2005.07.14 18:02

ざれこさん、コメントありがとうございます。
トラックバック、嬉しかったですよ。また、どんどんしてくださいませ。
自分からは、なかなか出来ない(消極的…)ので、大歓迎です。
それに、お褒めの言葉までいただいてしまって恐縮です。ぜひまた来てください。私もまた行きます!

12年。そのくらい長く強く、誰かを思ってみたいです。

投稿: ましろ(ざれこさんへ) | 2005.07.14 19:43

ましろさん、こんばんは!
気になっていた『袋小路の男』やっと読みました。
タイトルに惹かれますね…。まさかこんなお話しとは思いもしませんでしたが。
一人の人をずっと思い続けるなんて、しかも日向子のような恋はきっと私には無理です(笑)
それでも客観的に見るとこんな恋もいいかな、って思えてしまうんですよね。

トラックバックさせていただきますね♪

投稿: リサ | 2005.08.15 21:16

リサさん、コメント&トラックバックありがとうございます!
私にもこんな恋は無理だなぁ…なんて思いつつ、秘かに憧れてしまいました。
好きで好きでたまらない、あまりに切ない恋の行方を、妄想したりして…
あ、最近私はそんなふうに誰かを思うことを忘れているかも知れません。

投稿: ましろ(リサさんへ) | 2005.08.15 22:44

TBさせていただきました。
ましろさんのように女性だと
そのような感想を抱くのですね。
そんな柔らかくて素敵な心持になれれば
良いのでしょうが、ひねくれ者のぼくは
小田切がきになってます。
それでも彼の思いがいまいち
掬いきれませんでした。
難しい。

投稿: 門外漢 | 2008.02.01 00:18

門外漢さん、コメント&TBありがとうございます。
やわらかで素敵、なのかどうか…。
今読んだら、また違ったふうに読んでしまうかもしれません。
小田切めー!ちくしょうー!!!とか(笑)
でも、誰かをこんなにも長く思い続ける姿勢は、
やはりいつまでも変わらずに大事にしてゆきたいものです。

投稿: ましろ(門外漢さんへ) | 2008.02.01 08:33

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