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2005.07.15

白の鳥と黒の鳥

20041121_016 優しいのに残酷で、愛おしい毒を感じさせる不思議な19の短篇集、いしいしんじ・著『白の鳥と黒の鳥』(角川書店)。“ラー”としか言えない息子と、動物の鳴き真似が上手な肉屋の父親を描いた「肉屋おうむ」。女優を目指す双子の女の子の人生を描いた「カラタチとブルーベル」。太った人ばかりが暮らす天国のような島について描いた「太ったひとばかりが住んでいる村」など、魅惑的な作品が収録されている。著者の作品は、『絵描きの植田さん』(ポプラ社)に続いて2冊目。徐々に分厚いものを読んでいこうと思っている。

 19作品もあるので、印象深かった作品について書いていくことにする。先ずは、「赤と青の双子」について。予定通り生まれた長男。女の子が欲しかったのに誕生してしまった次男。父親の最後の願いも虚しく、男の子として生まれてしまった双子。そんな事情があって、赤男、青男という惨い名を付けられた双子。無口な2人は学校で虐待されても無反応。2人にしかわからないやり方で意志疎通し、くつくつ笑い合う。その不気味な様子は、アゴタ・クリストフの『悪童日記』のようでもある。そして、ぞっとするような怖さを残す結末がいい。物語は、不条理がおもしろい。

 「すげ替えられた顔色」は、“かおをぬすまれた”という娘の訴えから始まる。古いしきたりの残る村だからと、真摯な姿勢で聞き込みをする警官。そのうち、大勢の人々が同じ訴えをするようになる。元の顔を知っている者が見ても、少しも変わってなどいないように見えるのに…。普段から鏡を見ている女性ばかりでなく、鏡を見ない者までも次第に人目を避けるようになる。こういう思い、わかる気がするのは私だけではないはずだ。今日の顔はさえないなぁとか、ちょっと目元がいつもと違うとか。ほんの些細なことで、外出をやめることがよくあるから。O型なのに神経質か…

 それに加えて、この話で思い出したのが、大学時代にやった鏡映描写の実験のこと。自分の手が見えない状態で、鏡を見ながら図形をなぞり、そのタイムを測るものである。これが意外と難しく、思うように手が動いてくれない。気持ちと動作がなかなか一致してくれないのだ。鏡の中に見えている図形と、実際の図形が異なることを実感する。自分の認知している顔と、他者が認知している顔が同じではないように。この動作は、実は日常の中にあるもの。女性ならば、メイクで眉を描くことがまさにそう。当たり前のように普段やっていることなのだが、その仕組みを1から考えると、複雑なことに気づく。人間の心もまた複雑である。

4048735748白の鳥と黒の鳥
いしい しんじ
角川書店 2005-02

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