« 袋小路の男 | トップページ | 白の鳥と黒の鳥 »

2005.07.14

ソーネチカ

20050706_012 本の虫のソーネチカ。容貌のぱっとしない一人の女性の一生を描いた、リュドミラ・ウリツカヤ著『ソーネチカ』(新潮クレスト・ブックス)。物語は、第2次世界大戦あたりから展開する。疎開先にて、図書館で働いていたソーネチカは、夫となる男性と出会う。そして、夫の流刑生活についてまわり、子供を出産し、平凡で貧しいけれど幸せな暮らしをする。若かったソーネチカは、当然老いてゆく。やがて、大きな試練に見舞われ、それを乗り越えてゆく様が、最後まで淡々と描かれている。物語の温度が変わらないので、感情的にならずに、さらりと読むことができる。

 この物語、最後まで読んだあと、静かな余韻がじわじわと広がってゆく。本を夢中になって読むこと、物語の世界に耽ること、それらは決して無駄な時間ではないのだと思わせてくれる。主人公のソーネチカの心を豊かにし、その精神世界をつくり上げたのは、本を読むことで築き上げたものなのではなかったか。私が真っ先に思ったのは、そんなことだった。7歳から27歳まで、のべつまくなしに読書し、ふっと気を失うときのように、本の世界に入り込んでいたソーネチカ。人並みはずれた読む才能と、鋭い感受性。寝ているときまでも、夢の中で読んでいる。そんな主人公である。

 ソーネチカの夫となる男性は、図書館で出会った瞬間から、目の前の女性が妻となる人であると気づく。ソーネチカよりも遙かに年上の夫である。20代のソーネチカに対して、47歳の夫。彼は、自由を重んじる芸術家。彼の生き方や考え方に、ソーネチカは寄り添い、幸せを感じ続ける。のちに出会う娘の友人の美少女・ヤーシャ(娘のように可愛がる)に対しても、どこまでも愛情深く接する。夫との間に何かがあると知っても、少しも変わることなく。ヤーシャの美しさに惚れ惚れし、不細工な老妻の自分に対して誠実な夫を思う。娘も夫も、何て素敵な人生を送っているんだろうと。

 ここまで書くと、ソーネチカという女性ほどお人好しな人物は、少々現実離れしていると思うかもしれない。特に、物語の後半はあり得ない状況と感じるかもしれない。私自身も多少の違和感を覚える。けれど、物語を淡々と進める作家の腕がずば抜けているので、ソーネチカという人物をとても魅力的に見せている。先に述べたように、彼女の心の豊かさとそれを支える精神世界が、とても素晴らしいのだ。老いて、太り、病を抱え…それでも、内面の美しさを持ち続けること。生きるということ。そういうものに対して、感動してしまう。そして、ずっとソーネチカの心を支えているのは、物語。甘く心地よい読書の深遠に、我が身が果てるまで心をぐのだろう。

4105900331ソーネチカ (新潮クレスト・ブックス)
沼野 恭子
新潮社 2002-12

by G-Tools

もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…
にほんブログ村 本ブログへ←クリックお願いします!

|

« 袋小路の男 | トップページ | 白の鳥と黒の鳥 »

63 海外作家の本(ロシア)」カテゴリの記事

65 新潮クレスト・ブックス」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

 きっソーネチカにとって本を読むことと、ましろさんにとってのそれとは、普通の人が感じる以上の緊密性があるんでしょうね。社会的によしとされてる生活ってのは、たとえばそういうものがあるとしたらという前提のもとにですが、大多数の人にとって酷く詰まらないものであるように思います。ルーティンワークには想像力のようなものは感じられないし、社会の分業化がすすめば、人間の総合性のようなものも失われていってしまいます。そこで必要になるのは強力な想像力ではないかと思うのですが、それはある人にとっては読書という行為によって補完されるべきものなのでしょう。

 最近、僕はなんやかやで読書をする時間が殆どとれない悲しい状況なのですが、(といっても、何も読んでないわけではないのですが)時間を見つけて昔読んだ怪奇小説をパラパラと眺めています。するとそこには、覚えていた粗筋と少し異なったプロットが登場してくれます。もちろん客観的には本の内容が変わるわけはないのだけど、僕の方が変わってしまったので、異なるプロットというように感じるのでしょう。僕は、そこで中学生ぐらいで、ハニカの少年と会話をしてみます。また、翻訳者の経歴を眺めてみて、昔は年寄りが翻訳してるとおもっていたけれど、それがまだ若手の翻訳者だと気づいたり。情報というのは普遍だけけれど、人間は移ろいやすいもの。僕という人間を振り返ってみる意味でも、読書は役に立ってるように感じます

投稿: るる | 2005.07.15 19:49

るるさん、コメントありがとうございます!
ソーネチカに惹かれたのは、きっと自分の中に似た部分を見つけたからかもしれません。心のどこかで、本(特に小説)を読むことに対する後ろめたさのようなものを感じたり、時間の無駄ではないのかと考えてしまったり…そういう思いを打ち消してくれた本でした。

昔読んだ本を読むと、私も自分が変わったことに気づくことがあります。新しい発見があって、嬉しくなることもありますが、あまりに趣味趣向が変化してしまいショックを受けることもあります。本当に“人間は移ろいやすいもの”ですね。それが、全てよい意味での成長であってくれたらいいのにと願ってしまいます。

投稿: ましろ(るるさんへ) | 2005.07.15 21:07

ましろさん、こんにちは!
ほんと静かな余韻が素敵な作品ですね。
でも本を読むという意味では私もソーネチカに
負けないぐらい読み続けてるはずなんですけど…
…あれれ。(笑)

小説を読むことに後ろめたさを感じたことはないですが
読むことによってどんな風に変わったか
そもそも読むことによって変わることがあったのかは謎…
でも本を読むことによって、ソーネチカとは違う形であっても
何か自分の中に積み重なっていったり育まれたりするものが
あると信じたいです。

投稿: 四季 | 2009.03.20 19:35

四季さん、コメント&TBありがとうございます!
はい。そうですね。余韻が素敵な作品でしたよね。
四季さんはまさにソーネチカを思わせるくらいの読書家です。
いや、もしかするとそれ以上の読書家かもしれないなと思いますよ。
のろのろ読書のわたしとは、吸収力も違うんだろうなって尊敬します!

小説を読むことに対して、わたしは結構後ろめたさを感じてしまうので、
何らかのかたちで自分の糧になってくれていたらと常々思います。
それはたぶん、わたしが読書を現実逃避の道具にしていたからだと思うんですよ。
この『ソーネチカ』を読んでいた頃は特にそうだった気がします。
だから、この一冊で少し救われた気持ちになりました。

投稿: ましろ(四季さんへ) | 2009.03.20 20:24

ましろさん☆こんにちは
本を読みながら、登場人物と一緒に笑ったり、泣いたりしちゃいます。
自分にはない何かを見つけたり、今まで気付かなかった自分を見つけたり。
昔読んだ本を読み返すと、また違う発見があるし。
読書しない生活なんてわたしには考えられません。
いつか、ソーネチカのような境地になれるかしら?

投稿: Roko | 2009.03.31 13:25

Rokoさん、コメント&TBありがとうございます!
わたしも結構感情移入度は高めかもしれません。
この頃は少なくなってきた気がするものの、
前はかなり一緒になって笑ってみたり泣いてみたり。
わたしもソーネチカのような境地にはなかなかなれないけれど、
読書のない生活は考えられません。
いいですよね、本のある暮らしって。

投稿: ましろ(Rokoさんへ) | 2009.03.31 18:44

ましろさん、こんにちは♪
結構この作品、本好きの女性には共感できること請け合いの作品じゃないでしょうか。
自分自身のアイデンティティーを確認できるような感じかな。

翻訳本ならではの内容だったと思います。
国内作品で同じような内容だったらここまで共感できないような気がします。

まあ、こうやって本を手に取る時間があるということを感謝しなければいけませんよね。
主人公の吸収力をおすそ分けしてほしい気分です(笑)

TBいつもどおりでした。

投稿: トラキチ | 2009.04.17 12:32

トラキチさん、コメントありがとうございます!
そうですね。本好きの女性にはうってつけの本かもしれませんね。
自分を再確認してみたりして。楽しめました。

国内作品でも本好きの少女のお話、いくつかありますけれど、
それはそれでとってもよかったですよ♪
知らない本がいっぱい見つかって、自分の読書量の少なさを痛感しました。

こうして本を手にとる時間があることには、感謝すべきなのでしょうね。
主人公の吸収力は、わたしもぜひとも欲しいところ。
ソーネチカのような境地になれる日はくるのやら…?

投稿: ましろ(トラキチさんへ) | 2009.04.17 18:33

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/4969907

この記事へのトラックバック一覧です: ソーネチカ:

» 「ソーネチカ」リュドミラ・ウリツカヤ [Ciel Bleu]
 [amazon] 兄に冴えない容姿をからかわれて育ったソーネチカは、幼い頃から... [続きを読む]

受信: 2009.03.20 18:45

» 『ソーネチカ』 リュドミラ・ウリツカヤ [Roko's Favorite Things]
ソーネチカ (新潮クレスト・ブックス)posted with amazlet a [続きを読む]

受信: 2009.03.31 12:59

« 袋小路の男 | トップページ | 白の鳥と黒の鳥 »