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2005.07.05

くうねるところすむところ

20050631_041 人が暮らすところ、帰っていく場所、心の容れもの、マイホーム。人を気持ちよくさせるもの。資産以上のもの。家をつくる仕事が、大きく人生に影響を与える様について描かれた建築小説(と、言っていいのか…)、平安寿子・著『くうねるところすむところ』(文藝春秋)。上司との不倫と、仕事でのストレスに耐えられなくなった30歳の女性(梨央)。離婚を機に工務店の社長になってしまった45歳の女性(あだ名・姫)。この建築に関して素人の2人の女性を軸にして、人と人との関わり合いについて、自分の備えている力はどこまでなのか、いかにして生きていくのか、そんなことに心を巡らせた。

 この本のタイトル。最後まで読むと、あの有名な寿限無からきていることがわかる。“寿限無、寿限無、五劫のすりきれ、海砂利水魚の水行末、雲来末、食う寝るところに住むところ、やぶら小路ぶら小路。パイポ、パイポ……”である。物語の後半で、建てられる家の名<寿限無亭>について語られる場面で出てくる。どうやら、昔の偉い人というのは、家々に名前を付ける習慣があったらしい。それを習って付けられた落語の名である。“寿限り無し=寿限無”は、子供の将来の幸せを願う呪文。実に縁起がいい(らしい)。どんな意味なのかは、わかっていないのだけれど。

 ストレスをためて編集の仕事を辞めた梨央。きっかけは、高いところから街を見下ろして、バカヤローと叫ぶことだった。その場所というのが、すいっと中に入れてしまった建設中の足場だった。酔いがまわっていた梨央は、上ったはいいが、降りられなくなってしまう。そこへ、通りかかった(実は、込み入った事情がある)とび職の男性によって、助けられる。そのヒーローに思えた男性に会いたい、その思いに人生を左右されて、ほんの少しの視野の広がりを感じて、失敗の痛手を覚悟して、前へ踏み出した。その決断のように、梨央はずっと気持ちいいくらいポジティブで、潔い人物として描かれている。

 そして、忘れてはならないのが、対人関係について触れられているところ。“対人関係なんて、うまくやれないのが普通よ。思い通りにいかないとか、相手がどう出るか見当つかないとかで、人のこと遠ざけるなんて、自尊心強すぎ。…(省略)合うものと巡り合うのをあきらめるなんて、絶対、損よ。”対人関係は、家や仕事などと一緒だと。気持ちのよい空間と、なんとなく落ち着かない場所があるように。やっていて楽しい仕事と、そうでない仕事があるように。これは、当たり前のことだけれど、つい深い人間関係を避けてしまう私には、少々痛い言葉に感じられた。その他にも、印象深いところは、たくさんあるが、ここまでにしておこう。

4163239901くうねるところすむところ
平 安寿子
文藝春秋 2005-05-25

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コメント

対人関係については、僕もよく考えますね。こいつとは、どの程度の距離をとろうかとか。自分が傷つかない程度で居心地のよい対人関係を築き上げられたらよいのですけどね。なかなか思うようには・・・

投稿: るる | 2005.07.05 12:49

るるさん、コメントありがとうございます。
そうですよね…なかなか思うようにはいきませんよね。
対人関係においては、前回の「まるごと好きです」の工藤直子さんの方法を少々使わせていただこうかと思っております。距離を置くのも、前に踏み出すにしても、まずはまるごと好きになってからと。

投稿: ましろ(るるさんへ) | 2005.07.05 23:29

やっと読み終えたのでTBさせてください。
最近ちょっと読書から離れててなかなか更新できません。
来週には落ち着くと思うのですが。

投稿: 櫻井 | 2005.10.21 16:29

櫻井さん、コメント&TBありがとうございます!
お忙しい毎日なのですね。お疲れさまです。
更新されるのを楽しみにしております。

投稿: ましろ(櫻井さんへ) | 2005.10.21 18:35

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