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2005.07.16

ロカ

20050702_025 副題に“近未来私小説”と題された、中島らも・著『ロカ』(実業之日本社)。昨年、著者急逝(‘04年7月26日)のため、絶筆となった作品である。まるで著者自身の16年後を、あれこれ面白可笑しく想像を膨らませて描いたような作品で、ひたすら楽しい。世の中に対して言いたいこと、気づいたこと、考えたことなどを、この未完の小説の中に凝縮しているように感じられる。そして、未完の作品にもかかわらず、完璧に計算し尽くされているかのようにも思える結末(正確には中断)がいい。もうこの世に続きを書く人がいないことを思うと、様々な感情がわいてくる。

 物語の主人公は、68歳の作家。8年前に「死ぬまで踊れ」という娯楽小説がヒットし、信じられないような額の印税が入って以来、一人でホテル暮らしをしている。死に備えて物を手放してゆく時期だと言い、お金と原稿用紙と鉛筆と“ロカ”と名付けたギターしか持ち物はない。本当に書きたいことだけを書き、ギターを背負って街をうろつく日々を送る。久しぶりに出た生放送番組での放送禁止用語の連発や、老人へのドラッグ解禁を提唱する過激さも、老人臭を気にして香水を買いに行ったり、68にしてロックにしびれてしまったりするお茶目さも、決して賛成ではないが素敵だと思った。

 この物語の中で、過去の自分自身を振り返る場面がある。自嘲して鏡を見る。“40を超えたら自分の顔に責任を取れ”という言葉を思い出し、“こんな責任の取り方ってあるのかね”と呟き、この年まで生きている自分に驚く。35歳で死ぬことになっていた自分が、まだ生きていることを強運だと思う。人間にはみな「役割」があるという。その役割がすまぬうちは殺しても死なないというが、自分には果たしてまだ役割があるというのか。こういう言葉を読んでしまうと、著者の死について考えずにはいられなくなってしまう。さらりと書かれている「役割」という文字が哀しい。

 そして、もうひとつ印象深かった場面について書いておく。主人公がどうしたらいい文章を書けるか語る場面である。「一番大事なのはその書き手にどうしても人に伝えたい事実、考え、想いが有るかどうかってことなんだ。溢れ返る想い、思考があってこそ“書く”という行為が必要になってくる」そう語る。それは形式に左右されることなく、自分の思うままに、自由に。本当に自分が書きたいと思うことを“書く”ということの、初期衝動を伝えているように思う。そうだ、この本はきっと、そういう初期衝動をそのまま形にしたような作品なのではないか。そんなことを感じた。

4408534706ロカ
中島 らも
実業之日本社 2005-04-17

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受信: 2005.07.16 22:56

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