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2005.07.28

現実入門

20050721_069 一言で説明するのならば、“エッセイの体裁をした恋愛小説”というのがしっくりくる、穂村弘・著『現実入門』(光文社)。どうも私は人生の経験値が低いのではないか…そんなふうに自分について思う著者が、美人編集者と共に未経験のことを次々と体験してゆく。献血、健康ランド、枡席での相撲観戦、モデルルーム見学、占い、合コン、はとバスツアーなどなど、微妙なメニューが並んでいる。読み進めていると、次第に著者の妄想が気にかかる。全ての経験は妄想に彩られ、現実と非現実を行き来する。これは、リアルなのかそうでないのか。奇妙な感覚に陥る。それが何だか心地よくて、私はページをめくっていた。

 いわゆる“普通の人”が普通に経験していることに挑戦するという趣旨なのだが、果たして普通に誰もがやっていることなのか。少々疑問が残る。サブタイトルに“ほんとにみんなこんなことを?”とあるように、みんながみんな、ごくごく当たり前にやっているとは思えない。“経験値”が高いからといって、人間的に優れているわけではないだろう。経験したことがないのならば、妄想すればよいじゃない。たびたび本の中に登場する著者の妄想に慣れてきた私は、そんなことを考えてしまう。しまいには、妄想は心を豊かにするものだわ、だなんていう言葉で結ぼうとしている。熱しやすく、染まりやすい我が身に気づく。

 さて、“経験値”について思うところを語ろう。私自身が、本の中に登場することで経験があることは、たったの4つだった。少ない。少な過ぎる。けれど、いわゆる“普通の人”というのが、決して経験したことのないことをいくつか経験していると言ってもいいかもしれない。自慢の出来ない不幸不運泥沼の経験だが。思い返してみれば、著者の言うところの“普通の人”というものも、“人生の経験値”というものも、ある一人の男性の主観でしかない。私が経験した不幸不運泥沼だって、ごく一般的に経験することかもしれないのだ。世の中には、たくさんの出来事が溢れているし、喜怒哀楽様々な人々の感情がこぼれているものだから。

 そして、“エッセイの体裁をした恋愛小説”だと思う理由を、ちらり書いておく。後半も後半、著者の経験がほんのり熱を帯びてきたあたりである。現実ではありえない文章が出てくるのだ。あれ?何これ。違うでしょう。わざとなのか。ん?と。さらりと読んでいたら気がつかないほどのことなのに、この文の威力はすごい。気になって初めから再度読み返したら、全てがフィクションに感じられたくらいだ。もしや、なにもかも著者の妄想なのか、読み手である私たちはまんまと著者の策略にはまってしまったのか、と。こんな楽しい妄想&策略ならば、いつでも喜んで浸りますよ。

4334974775現実入門
穂村 弘
光文社 2005-03-23

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コメント

「美人編集者と42歳の歌人が、共に未経験のことを次々と体験してゆく」なんて、とてもユニークな題材に感じます。面白しろそうですね。

未経験のことを体験すること自体、わたしは好きです。IT産業に勤めているんだけど、パソコン教育のアビバに無料体験レッスンしに行ったのも、よい体験でした。同僚に言わせると「ひやかし」だそうだが、いやいや学ぶところがいっぱいありました。9月には、ボランティアとして、日本点字図書館主催のアジアの視覚障害を持つ優秀な大学生のOA教育のサポートに行きます。それまでに英語をブラッシュアップせねば。。。(; ̄ー ̄A アセアセ・・・

投稿: Kou | 2005.07.30 10:27

こんにちは♪
TBありがとうございました。
ましろさんの感想を伺って初めて、
このエッセイの意味深な部分に気づかされた気がしてます!
妄想と現実との境目って何かな~、とか。
妄想も現実の一部かもしれない、とか。
妄想と言えども、それを体感していることに違いは無いわけだし。
同じように「普通」という言葉も実はとても曖昧なものなんだな、と。
「~主観でしかない」という言葉に「!!!」何だか目が覚めた感じがしてます。

『本当はちがうんだ日記』も読むのが楽しみになってきました。

投稿: | 2005.07.30 11:26

Kouさん、お久しぶりです。
コメントありがとうございます!
アビバへ…(笑)私の中では、Kouさんは英語もPC関連のことも堪能であるイメージがあるので、ニヤッとしてしまいました。アビバの方、驚かれたのではないですか。でも、わかっているように思えることも、いざ学んでみたら知らないことがいろいろあることに気づきますよね。Kouさんの学ぼうとする姿勢を、私も見習いたいです。
ボランティアもなさるのですね。暑い日が続いていますから、お体にはくれぐれも気をつけてくださいまし。

投稿: ましろ(Kouさんへ) | 2005.07.30 16:00

柊さん、コメントありがとうござます!
この本というか、穂村さんは、ホント意味深ですよね。
妄想と現実とが絡まり合って、境目も違いもどんどんわからなくなってきてしまいました。
『本当はちがうんだ日記』を読み始めたのですが、かなり頭の中が混乱しております。
ん?う・う・うそ日記なのか?
どの言葉を信じればいいのだ?
と。そんな状況です。

投稿: ましろ(柊さんへ) | 2005.07.30 16:08

初めまして。
トラックバックの際にはコメントを、ということだったので書かせていただきます。
随分と本がお好きなんですね。ペースも速いようですごいですね。
文章も長く深くきちんと書かれていて素晴らしいです。
僕はあまりうまく書けなくて、ヘタな上に短い文章に妙に時間がかかります。うらやましいです。
あと、猫の写真がかわいくってGOODですよ!

投稿: 藤井イサナ | 2005.09.04 23:12

藤井イサナさん、コメント&トラックバックありがとうございます!
“素晴らしい”だなんて…そんな素敵な言葉をいただいてしまってよいのでしょうか。
とっても嬉しいです。
そして、長々と自由気ままにだらだら書いているものですから、恐縮。でもあり。

猫写真、かわいいですか。よかったです。
藤井さんのところにも遊びに行かせていただきますね。

投稿: ましろ(藤井イサナさんへ) | 2005.09.05 13:25

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» 穂村弘『現実入門』●○ [駄犬堂書店 : Weblog]
 副題は《ほんとにみんなこんなことを?》。2005.3.25初版。初出「小説宝石... [続きを読む]

受信: 2005.07.30 13:28

» 「現実入門」穂村 弘 [脈絡もなくただ日々思うことを綴るblog]
この人がいったいどんな人なのかも詳しくは知らなかったのだが、雑誌「ダ・ヴィンチ」で紹介されていてなにやら面白そうだったので読んだ。 40を過ぎて世間の人が普通はやっていてもおかしくないことを次々と体験していきその体験をエッセイとして書いたもの。 この人の独特の感覚で書かれたおもしろい文章でひょいとひょいと面白く読めた。 最初からなんだか虚実ない交ぜで書かれているんだろうと思っていたのでオチはなんとなく読めてしまったが、それはまあたいしたことじゃない。 この人のダメさとかダメさとかダメさとかとにか... [続きを読む]

受信: 2005.09.04 23:04

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