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2005.07.12

絵描きの植田さん

20050702_010 真っ白な装丁に引き寄せられて読むことにした、いしいしんじ・作、植田真・絵による『絵描きの植田さん』(ポプラ社)。古いガスストーブが不完全燃焼(どうやら家ねずみのせいらしい)したために、耳がほとんど聞こえなくなってしまった絵描きの植田さん。画材一式とわずかな着替えをたずさえて、都会から遠く離れた高原の一軒家に引っ越し、温かい人々と出会う。穏やかに展開していく物語は、とても心地よく朗らかである。

 物語の舞台は、大きな湖を挟んで、「こちら側」と「向こう側」に別れている。こちら側に昔から暮らしている人々は、「向こう側」に対して複雑な思いを抱いている。具体的にそれが何なのかについては、語られないのだが、「向こう側」が忘れてしまった何かが、「こちら側」にはあるのではないだろうかと思った。それは、人と人との温かい関わり合いや、自然によって営まれる様々なものや、どんなに私たちが変わっても変わらずに残るものがあることなのかと思うのだ。“私たち、こんな素晴らしい世界に住んでいるのよ!”という少女の言葉が、いつまでも胸に響く。

 この本の中で印象的なのは、何と言っても自然ではないだろうか。季節は冬。雪に覆われた地には、野生の動物(主に鳥)たちがたくさん登場する。ツノジカ、ムクドリ、シロハラ、ベニマシコ、マヒワ、ツグミ、キレンジャク、シジュウカラ…などなど。私はたったの3種類くらいしか知らなかったのだが、後半に出てくる植田真さんの絵を見ながら、あれこれ勝手に名をつけて楽しんだ。どれも、小さく繊細なタッチで描かれた可愛らしい鳥である。そして、一番の景色は、樹氷だろう。ため息が出そうなほどの美しい描写に、思わず百科事典(日本大百科全書 11巻 小学館)を広げてしまった。

 この樹氷、言葉にならないくらいに美しい。私が見た写真は、長崎県雲仙岳の落葉樹枝に結氷した樹氷で、南国の冬の風物詩「花ボロ」。まさに、雪の華である。風が強く雲霧が去来してできるもので、樹木についたものが大きく成長すると、形の特徴からモンスターと呼ばれるそうである。物語の中では、このモンスターを“ばけもの”と言っている。“白いばけもの”という言葉だけでは、イマイチ伝わってこなかった部分が、すっと理解できた気がする。冬が来たら、何としても樹氷を見に行かねばなりませぬ。

4101069263絵描きの植田さん (新潮文庫 い 76-6)
植田 真
新潮社 2007-11

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コメント

ましろさん、こんばんは♪

”樹氷”は見たことないですが、知人に言わせればそれはそれは見事で美しいんだそう。
長野の乗鞍あたりでも見られるそうなのでいつか見てみたいなぁと僕も思ったりしていました。

いしいしんじさん、物語作家と呼ばれてふさわしいぐらい、彼の描く世界はとても好きです。
今ちょうど宮沢賢治を読んでいるんですが、なにやら同じにおいがいたします。

あ、そうそう、お気に入り本にある高橋源さんの本、ましろさんのコメントを読んで相当気になっているんです。

こうして読みたい本がどんどん増えていくのでしょー(^^

投稿: Kazuma | 2005.07.14 00:04

Kazumaさん、コメントありがとうございます。
長野でも樹氷見られるのですね。冬が待ち遠しいです!
きっと、見とれちゃうんだろうなぁ…

いしいしんじさんの作品、お好きなのですね。
ちゃんとしっかり読んだのは、初めてでした。
長く分厚い作品が多いので、実は何度か挫折していました。
短い作品から、徐々に長いものへと挑戦していきたいと思っております。
次は「白の鳥と黒の鳥」をと。

高橋源一郎さんの本、とってもよかったですよ。
これぞ、ロックな本!といった感じでしょうか。
「やまなし」と「注文の多い料理店」が好きです。
あまりにも長いというのと、ネタバレになってしまうという理由で、ブログ記事に載せていないのですが。
宮澤賢治の物語を読んでから読むと、より楽しめると思います。

投稿: ましろ(Kazumaさんへ) | 2005.07.14 11:53

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