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2005.07.19

AMEBIC

20050702_012 錯乱した文章から始まる、金原ひとみ・著『AMEBIC』(集英社)。改行の少ない文体と、極端に少ない登場人物。主人公である20代の女性作家の混沌とした心の内面が、ひたすら描かれてゆく。それは、現代社会に生きていれば、誰もが感じるであろう悲しみや、寂しさ、孤独感、危うさであるのかもしれない。心のバランスをぎりぎりのところで保ちながら、何とか生きる姿に共感する人は少なくないだろうと思う。正常と異常の狭間とでも言うべきか、タイトルになっているアミービック(アメーバー状)な感覚は、私にとっては意外と身近なものだった。

 この物語の主人公は、ときどき意識が朦朧とし、文章を書き残す癖がある。それを彼女は“錯文”としている。錯文は、言葉にならないリアルな感覚を思いにして、不思議と心にすっと入ってくる。口にする固形物はサプリメントと薬と漬け物だけという、主人公の異常な食生活にしても、次第に慣れていく。いつの間にか、主人公に同化してゆき、体の中に食物を入れるという行為が、気持ちの悪いことのように感じている自分に気づく。いわゆる“普通の健康な人”から見たら、主人公のアミービックな世界の方が気持ちの悪いものであるはずなのに。物語の世界に浸り過ぎてしまったのか。それとも、人を惹きつける魅力溢れる作品だからか。

 そして、主人公は、タクシーに乗ると、嫌悪感を抱いているはずの恋人の婚約者になりきる。29歳。パティシエをしていて、来月結婚する予定で、六本木に住んでいて、好物はスイーツ、パスタ。アルコールは赤ワインが好き。32歳までに子供が欲しい…知らないことは、自分でどんどん脚色してゆく。他のディテールについて話し出すと、さらに絞り込まれ、その都度快感を味わう。似非人間として楽しむ。神である私(主人公)が、ただの人間の振りをしているように。自分を“神”にまでもちあげるのは、なかなかないにしろ、他者になりきることは多くの人がやっていることかもしれない。

 それから、一番印象に残ったのは、物語の前半で語られる1つのエピソードについて。主人公が子供の頃に、“ライン踏み”をしていたと語る場面である。“ライン踏み”とは、ガードレールや電柱などの、道の両脇に立っている物が道路に対して真っ直ぐに倒れ、垂直に線を延ばしているものと想定し、そのライン上に足を乗せて歩くというもの。用水路の蓋の切れ目や溝などもラインとして認識する。実はこれ、私もやっていた。小学校から家までの距離があまりにも長かったため、自分にルールを課して帰ったのだった。実に孤独なゲームである。自分にしかわからない楽しみというのは、孤独がつきまとうものなのか。主人公の孤独と私の孤独とが、結びついたのを感じた。

4087462528AMEBIC (集英社文庫 か 44-3) (集英社文庫 か 44-3)
金原 ひとみ
集英社 2008-01-18

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金原ひとみ AMEBIC 「蛇にピアス」「アッシュベイビー」を含めて、 「作者本人」が「主役」と思わせます。 錯乱した文章を残してしまう「作家の主人公」 そして、その「錯文」を書いた記憶は一切ない。 錯乱している「作家の主人公」が、 無意識に「自分自身」に「な... [続きを読む]

受信: 2005.08.10 13:31

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