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2005.07.31

家庭の医学

20050729_056 タイトルに惹かれて手に取ったノンフィクション本、レベッカ・ブラウン著、柴田元幸訳『家庭の医学』(朝日文庫、朝日新聞社)。死にゆく母親のことを、丁寧に細やかに綴っている。各章には、病気に関する用語が並び、その説明が添えられている。例えば、貧血、転移、嘔吐、水治療法、火葬など。まさに、病気の辞典である「家庭の医学」のように。ノンフィクションの構成としては、かなり異色な雰囲気を漂わせている。“面白い”というには、あまりに不謹慎であるが、“こんな本があったのか!”と思わずにいられない。海外作品は少々苦手であるが、著者の作品ならもっと読んでみたい。

 読み進めれば進めるほどに著者の母親は老い、死に近づいてゆく。それを目の当たりにしている著者ら家族、その当事者である著者の母親には、きっと複雑に絡み合う様々な思いがあるのだろう。見たくないもの。見られたくないもの。考えたくないこと。それらのことに、心を乱すこともあるだろう。けれど、著者の視点は一時的に感情的になるものの、少し休んで冷静になってきましたよ…的な雰囲気で始終淡々と書かれている。美しくもある。あぁ、すごい。この人は強い。私は読みながら、そんなことばかりを感じていた。いや、待てよ。もしかしたら、感情的になっているがゆえの落ち着きなのだろうか。

 人間、誰もがいつかは死を迎える。私の身近でも、いくつかの死があった。この本を読みながら真っ先に浮かんだのは、母の涙である。日に日に痩せ、食べることも話すことも動くことも難しくなってゆく祖母を前に、優しく静かに語りかけながら母は泣いていた。しっかりつかんだ祖母の手は、あまりに弱々しく感じられた。先に書いた“見たくないもの”“考えたくないこと”それらが、母の前に突きつけられていたのだと思う。もちろん、祖母の前にも様々なことが。本の中には、そういう過程を少しずつ乗り越えて、受け入れるまでの心の揺れがちゃんと書かれている。

 レベッカ・ブラウンの『家庭の医学』を読みながら、フロイトのモーニングワーク(喪の仕事)を思い出す。そうだ、著者は“誰もが体験するある1つの過程”を書いた。だから、このタイトルなのか。こういう構成を選んだのか。もちろん、同じ誰もが体験する過程といっても、そこに生じる様々な感情は人それぞれである。安易な気持ちで、“私もそう思った”だなんて言えない。それにしても、ただ一人であっても、死によってもたらされるものはたくさんである。いろんな意味合いで。そんなふうに感じたのは初めてのことかもしれない。人の死に対して、私は鈍感だったのかな…

4022643609家庭の医学 (朝日文庫)
Rebecca Brown 柴田 元幸
朝日新聞社 2006-03

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コメント

こんにちは。コメントありがとうございました。
『家庭の医学』は重い内容なのに、重さを必要以上に感じさせず、
かといってもちろん情がないわけでもなく、どうしたら
こんなにうまく書けるのかしら、と感じました。
すごいなあと。
たいしたものは書いていませんが、よかったらまたお越しください。
こちらからもTBさせていただきました。

投稿: kankan | 2005.08.02 10:34

kankanさん、コメント&トラックバックありがとうございます。
ホント“うまい”と思わせる書き方ですよね。
この作品を機に、レベッカ・ブラウンの他の作品にも挑戦してみようと思っております。
kankanさんのところは、他のブログとは流れている時間が違うような気がして、とっても心地よかったです。
またお邪魔させていただきますね。

投稿: ましろ(kankanさんへ) | 2005.08.02 13:22

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レベッカ・ブラウン, 柴田 元幸 家庭の医学 むかしはうちにも『家庭の医学』という分厚い本が常時一冊はあり、わたしがおなかが痛いといったり、だれかが何だか具合が悪いというと、たいていその本を見て、何かを想像したり、確かめたりしたものです。それをする多く... [続きを読む]

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