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2005.07.09

ヘヴン

20050702_032 クシシュトフ・キェシロフスキ。映画監督。彼は1996年3月13日、享年54歳で亡くなった。遺稿であるシナリオに先だって書かれたフィルム・ノヴェル、『ヘヴン』(角川書店)。映像化のために書かれたものであるから、文学作品とは少々趣が違う。登場人物をそっと見守るような視点で、最初から最後まで描かれており、人の痛みや孤独が随所にちりばめられた物語は、静かな余韻を残す。この作品、映画「ラン・ローラ・ラン」の監督として知られる、トム・ティクヴァにより映画化されている。
 
 内容は、罪を犯した教師の女性と、心優しい警官の男性との逃避行ラブ・ストーリー。薬物の売人のせいで教え子の子供たちや夫が死んでいることを訴え続けたのにもかかわらず、少しも取り合おうとしなかった警察。それならば自分の手でと、薬の元締めのオフィスに爆弾を仕掛けた教師のフィリッパ。けれど、死んだのは何の罪もない4人だけだった。その事実に心を痛めるフィリッパ。彼女を口封じするために、警察は証拠を隠滅。別の罪をきせようとする。それを知ったフィリッポは、弟の教師でもある彼女を信じたいと思う。彼は、そっと彼女へのメッセージを残す。

 フィリッパとフィリッポは、密やかに愛を育み、2人で逃げるわけだが、それをサポートしてくれるフィリッポの父の偉大さが、とても印象的である。“人間って、一番大事なときに何もできないのはなぜなんだろう?”そんな言葉を口にする。警察の目を盗んで2人の元へ来ただけでも充分なのに。さらに、下の子(フィリッポの弟)がいなかったら、一緒に行くとまで。どこまでも深くフィリッポを信頼していなければ、こんなことは言えないはず。フィリッポが初めて警官の制服を着たときの温かいまなざしが、誇らしげだったことを考えると、深い愛情と絆が親子の間にあることが想像できる。何て素敵なのだろう。素直にそう思えた。

 実は、この本を読む前に、既に映画の方を観ていたので、どうしても頭の中のイメージは映像をなぞってしまった。ケイト・ブランシェッドの複雑な面持ち、どこまでも青く高い空、囁くように交わされる言葉、もの悲しく美しいピアノの調べ…どれもがじーんと心に染みてくる。私の昨年の12月2日の日記には、映画記録として長々と感想が書いてあった。そこには、“シンプルなストーリーに、複雑な感情。天上の光りへと導かれていく、詩的で哲学めいているラスト。運命、偶然、2人の関係。すべてが美しい”とあった。キェシロフスキの遺稿とは、多少異なる部分があるのだが、どちらも味わい深く楽しめる。

4048972073ヘヴン
クシシュトフ キェシロフスキ
角川書店 2003-03

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B0000C9VBZヘヴン 特別版
クシシュトフ・キェシロフスキ
アスミック 2003-11-14

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