« 香港の甘い豆腐 | トップページ | 現実入門 »

2005.07.27

悪戯王子と猫の物語

20050721_045 図書館でふらふら歩いていたら、不思議な佇まいの本にすうっと惹かれた。文・森博嗣、絵・ささきすばる『悪戯王子と猫の物語』(講談社)である。分厚い本に挟まれて居心地が悪そうな絵本のような厚みだったからか、大好きという言葉でも言い尽くせないくらいに猫が好きだから反応してしまったからか、はてさて。その両方であって、実はそうではないのかもしれない。この本、何とも独特な雰囲気を放っているのだ。大きな目をした(しかもメヂカラが強烈な)おかっぱの女の子にじっと見つめられてしまった感じ、と言えばわかっていただけるだろうか。私は女だけれど、そんな女の子が少々怖い。怖いのに見つめてしまう。

 美しくてグロテスクで、繊細で幻想的。言葉の意味も深く考えずにいたら、こんな言葉が浮かんだ。私が放った無責任な言葉だが。1文で表すなら、案外ぴったりなのかもしれない。そんな20の小さな物語が、絵と共に語られる。“ご覧、ここに書いてあるだろう。ほら、こうして細々とした文字になって、窮屈な物語になって、ここに閉じ込められているんだ。読んであげても良いけれど、読んだら、文字は消えてしまう。一度しか読めないんだよ”そう物語は始まる。優しい日だまりみたいに。まるで溶けるみたいに。とっても心地の良い物語。ひとつひとつに自分の感情を混ぜ込みながら、大切に読んだ。

 特に印象深い物語について書く。1つ目は「かぶり」。僕を被ることで僕になり、私になるために僕を捨てて私を被る。そういう繰り返しを簡潔に描いた物語である。人は、蛇や昆虫のように皮を脱ぐのとは反対に、一生何かを被りながら生きているものなのか…そう思うと、今ある私は本当の姿なのか。誰かの仮面を被っているのではないか。ずんずん言葉の渦にはまってしまう。そして、物語は、疑問をなげかけて消える。“被ることでなくなるものは何?”と。これまでに、私がなくしてきたものは…。一番に思い浮かんだのは、“痛いという感情”だった。幼き頃に感じた痛みを、今の私はほとんど思い出せないから。時間というものの残酷さを思い知る。

 もうひとつ気にかかったのは、森博嗣さんと、ささきすばるさんのプロフィール。どちらの紹介の最後にも、“トーマという名の犬を飼っている”と記されている。あぁ、そうだったのかぁ。いいなぁ。素敵だなぁ。さりげなさを気取りながら、主張を感じるではないですか。何だか寂しさを感じてきたので、私も書いてみようかと思いつつ、“トーマ”という響きに負けた気がしてやめることにした。トーマかぁ。トーマだものね、と。

4062753553悪戯王子と猫の物語 (講談社文庫)
ささき すばる
講談社 2006-03-15

by G-Tools

もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…
にほんブログ村 本ブログへ←クリックお願いします!

|

« 香港の甘い豆腐 | トップページ | 現実入門 »

69 アート・絵本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/5185100

この記事へのトラックバック一覧です: 悪戯王子と猫の物語:

« 香港の甘い豆腐 | トップページ | 現実入門 »