« ユージニア | トップページ | ボロボロになった人へ »

2005.07.23

庭師 ただそこにいるだけの人

20050721_110 “童話のような、寓話のようなおかしなおかしな一週間の物語”そう題された、ジャージ・コジンスキー著『庭師 ただそこにいるだけの人』(飛鳥新社)。生まれてすぐに、大富豪の主人に拾われた孤児の主人公・チャンス。彼は、庭師として育てられ、屋敷と庭から1歩も外に出たことがなかった。学校に通ったこともなければ、読み書きも出来ない。庭仕事以外は、ひたすらずっとテレビを見る生活。そんなチャンスの生活は、主人の死からがらりと変わることになる。物語の舞台は、1960年代の東西冷戦のさなか。ニューヨークの街は、不景気に沈んでいる頃である。

 チャンスは、新しい仕事と住まいを見つけるべく、生まれて初めて街に出る。“偶然”という意味で名付けられた名前のごとく、チャンスは偶然と偶然の結びつきによって、よい方向へと進んでゆく。大好きな庭のこと、テレビのこと。チャンスは、その2つのこと以外を何も語っていないのにもかかわらず、政治家や外交官、伯爵、報道陣などに注目されてゆく。彼らは、チャンスの放つ言葉をどんどん深く広く解釈し、謙虚で物静かな佇まいと、仕立てのよいスーツ(かつての主人の物)と、容姿の端麗さに魅了される。幅広く豊かな知性と育ちの良さを誰もが思う。

 物語のあらすじをざっと書いてしまうと、チャンスの言葉に群がる人々とその偶然に、おかしさや滑稽さが込み上げる。外に出て3日足らずで、大きく人生が変わってしまったチャンス。彼は、決してはしゃいだり舞い上がったりせず、ずっと冷静さを保ち続ける。どんな人物と会っても、議論を持ちかけられても、その態度は少しも変わらない。わからないことはわからないと言い、余計なことは何も話さない。チャンスという人物のやり方は実に利口だ。繰り返し書こう。チャンスは、大好きな庭のこととテレビのことしか話さない。

 私がこの物語を読みながら感じた気持ちは、ただ1つだった。チャンスが失敗をしませんように。それだけだった。チャンスの言動ひとつひとつに冷や冷やしながら、祈るような気持ちで読み進めていた。周囲の人々が思い描いているような知性も、教養も、資産も何もないチャンスが、人々の視線を集めれば集めるほどに、彼の行く先を心配した。人々の注目を集めている人物というものには、様々な意見が飛び交うはず。賛同してくれる人たちばかりではない。彼を利用しようとする人たちだっているだろう。彼をそんなに有名にしないで。チャンスは、大好きな庭のこととテレビのことしか知らないのだから、と。

4870316579庭師 ただそこにいるだけの人
Jerzy N. Kosinski 高橋 啓
飛鳥新社 2004-12

by G-Tools

もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…
にほんブログ村 本ブログへ←クリックお願いします!

|

« ユージニア | トップページ | ボロボロになった人へ »

64 海外作家の本(その他&分類不可)」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/5112296

この記事へのトラックバック一覧です: 庭師 ただそこにいるだけの人:

« ユージニア | トップページ | ボロボロになった人へ »