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2005.06.04

冥途

20050601_041 読み進めるほどに物語の不気味さや怖ろしさを感じる、作・内田百閒、画・金井田英津子の『冥途』(パロル舎)。近代文学の名作物語を新感覚の絵と色彩で表現する文学絵草紙シリーズ、2冊目の読書。萩原朔太郎の『猫町』と同じく、画家の視点が再構築する幻想と不思議の異世界へと誘ってくれる。表題作「冥途」の他、「花火」、「尽頭子」、「烏」、「件(くだん)」、「柳藻」の5編を収録している。内田百閒の作品は、『ノラや』と『東京日記』しか読んだことがなかったのだが、この『冥途』の魅力にうっとりまったりはまってしまった。

 高い大きな暗い土手の下にある小屋掛けの一ぜんめし屋にて、聞き流してしまうことのできない空耳を聞く<私>。自分のことを云ったらしいその声に、腹を立て暫くぼんやりしてにわかにほろりとくる。何という事もなく、ただ、今の自分が悲しくてたまらない。その悲しみの源は、思い出せそうで思い出せない。そして、様子も言葉もはっきりわからないものの、隣りのしっとりしたしめやかな団欒を羨ましく思う<私>。

 すると、その前にある障子の紙を、羽根がよじれて飛べない蜂が一匹、かさかさと上って行く。蜂のことを云っているらしいことがはっきりとわかり、何とも知れず懐かしさに堪えなくなる。まるで、その声が語る情景を見ているかのように、様々な思いが浮かんでくる<私>。静かに冷たく夜の中を走る土手、一ぜんめし屋のカンテラの光り、土手の腹に大きく映る影、うるんだ様に溶け合う人々の姿。思い浮かべたこれらは、すっと以前どこかで出合ったことがある思い出の地を感じさせてくれた。

 もうひとつ、「件」という物語について述べておく。子供の頃に聞いたことのある件の話。からだが牛で顔だけ人間という化物に、まさか自分がなろうとは。件は、生まれて3日にして死に、その間に人間の言葉で、未来の凶福を予言するものらしい。何を予言すればよいのかわからない<私>のもとに、人々が群がる。件のひとつひとつの行動に騒ぎ立てる人間たちと、<私>の心の中の葛藤が交じり合って、物語に奇妙なおかしさと怖ろしさを生む展開。あぁ、人間とは何て身勝手な生き物なのだろうと思わずにはいられない。けれど、その身勝手こそが人間に与えられた特権というものなのかもしれない。そんなことを考えた。その他の話も、それぞれ味わい深くしんみりと心に残る。

4894192500冥途
内田 百けん
パロル舎 2002-03

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コメント

ましろさん、こんにちは!
先日はコメントをありがとうございました。
私もブログ村からこちらへ来たのですが、可愛い猫ちゃんたちとましろさんの綴られる文章がすっかり好きになり以来密かに拝見していました。
ですから、こちらにコメント頂けたときの驚きと喜びといったら!本当に嬉しかったです♪
このシリーズ、私もとても気になっています。この絵がさらに幻想的な雰囲気を増していそうですね。ちょっと高価ですので、まずは図書館で探してみようと思います。
これからどうぞよろしくお願いいたします。

投稿: リサ | 2005.07.03 10:06

リサさん、コメントありがとうございます。
来てくださっていたのですかぁー!!!それに加えて、嬉しい言葉。心がウキウキしております。
パロル舎の本は、どれも素敵ですよね。私もこのシリーズ、欲しいんですよ。すっごく。
いつも見られるように飾っておきたいですし、プレゼント本にぴったりですし。
でも、お値段が…という感じで、図書館で借りたのです。
現在、このシリーズの宮澤賢治本をまとめた、『賢治草双』を借りております。

こちらこそ、今後も宜しくお願い致しますネ。

投稿: ましろ(リサさんへ) | 2005.07.03 11:02

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