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2005.06.16

自殺自由法

20050610_099 “日本国民は満15歳以上になれば何人も自由意志によって、国が定めたところの施設に於いて適切な方法により自殺することを許される。但し、服役者、裁判継続中の者、判断能力のない者は除外される”という内容の法律が制定されたという設定で描かれる小説、戸梶圭太・著『自殺自由法』(中央公論新社)。あまりにも軽い死、自由と謳うものの強制的な政府の対応、狂気に満ちた人々の言動や行動など、それらは不気味な恐ろしさ感じさせる。「バトルロワイアル」に似ているけれど、こちらの方が現代社会の問題を浮き彫りにしている気がする。

 この小説、最後まで読み終えると、著者による“本作脱稿後、筆者は鬱に陥りましたが、わずか2日で元に戻りました。読者の皆様もご安心ください。すぐに日常に戻れます。どんな日常かは人それぞれですが”との妙な言葉がある。そう、確かに気が滅入るような読後感は否めない。けれど、ご安心くださいって…わずか2日って…そう思ってしまう私は、もうきっと、戸梶ワールドにはまってしまっているのだろう。精神衛生上よくない危険な匂いのする書物が、私は結構好きであるから。ちなみに私がこれまで読んだ本の中で、最も危険な書物は、花村萬月氏の「笑う山崎」である。

 話を『自殺自由法』に戻そう。物語の中では、自殺を促すことを“自逝”と呼んでいて、自逝センターなるものへ行くための白いバスが、あちこちから出ている。例えば、駅前だとか某大型テーマパーク付近だとか。中には、嫌がらせのような大音量で自逝を促したり、大量に人々を回収したりしていく者もいる。そして、自逝センターの前には何百人もの列。物語の後半では何千人もの人に膨れ上がり、無言で何時間も待つ人々は門が開くたびに我先にセンターに入ろうとする。自逝執行には痛みのない方式を採用しているらしいということぐらいしか、センターの実態を知らないのに。

 なぜそれ程までに死を急ぐのか…自逝センターへと向かう人々の思いはそれぞれであるが、どうも動機が軽い気がしてならない。動機が軽い分、同時に人の命も軽くなる。自殺について語られるとき、人の命の尊さについて考えることが多いように思う。けれどこの物語を読むと、その尊さが全ての人に当てはまることではないとわかる。重い命と軽い命があることに気づく。その人がどう生きたかによって、確かに命の重みは人それぞれ違うのだ。そう考えると、懸命に生きようという気になる。自分自身のこれまでの生き方を見直そうという気持ちになれる。ただ、救いを求めるだけなんて、あまりに悲しい。

4122049385自殺自由法 (中公文庫 と 27-1)
戸梶 圭太
中央公論新社 2007-11

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コメント

昔星新一のショートショートで、こんな話がありました。

S博士が、霊界と交信できる装置を発明する。大勢の人たちが今は亡き人たちと交信するようになるが、死者たちはいちように死後の世界の方が居心地がいいとかたる。それを聞いた多くのこの世にいた人たちは、自殺を遂げ、結果としとしてこの世に残ったのは一組の男女だけ。彼等は互いに自殺を遂げなかった理由はよく分からないけれど「なんでだろうね」といいながら空を眺める。(大昔に読んだものなので細部が違っているかもしれません)

 何故生きるかと問われれば僕はよく分からないけれど、ショートショートに出てきた男女に共感します。自逝センターも笑えない時代になろうとしてるのかもしれないけれど、何か生きることに「意味」を見出したいですね。

それから花村萬月は『ゲルマニウムの夜』にビビッて読んでないです

投稿: るる | 2005.06.17 03:05

るるさん、コメントありがとうございます。
星新一の作品の死者の“死後の世界は居心地いいですよー”という声に多くの者が次々と導かれていった光景というのが、何となく「自殺自由法」の世界とだぶってきます。
けれど、死者はもしかしたら“ちっ、死ぬんじゃなかったな”なんて思いながら、あまりの悔しさに仲間を誘っていたのでは…と考えてしまいました。ひねくれてますね、私。
この世に残った男女は、きっと自分なりの暮らしに生き方に満足している人間なのではないかしらと。そもそもこの世に不満があるから、死後の世界が気になるはずで。解釈が自由なお話ですね。
そして、生きることの“意味”。意味を見出すことが好きではない私は、考えないことに…決定。

「ゲルマニウムの夜」は賞を受賞しているのですが、遥か昔に書かれた冷酷無敵な殺人鬼「イグナシオ」の焼き直し。ファンにとっては複雑な作品です。あ、今現在ましろはファンではないです。乙女なので。

投稿: ましろ(るるさんへ) | 2005.06.18 01:16

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分類に困る作品。 日本が自殺を承認し、お手伝いまでしてしまうという法案が出来てからの混乱や人々の変化、そして衰退までを描く長編の衝撃てきな作品。 20XX年の或る日、日本で「自殺自由法」施行された。 「日本国民は満十五歳以上になれば何人も自由意志によって... [続きを読む]

受信: 2005.07.08 12:13

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