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2005.06.08

なんとなくな日々

20050610_012 なんとなく連載を始めることになって、なんとなくその会社に行って、なんとなくごちそうになって、なんとなくエッセイを書くことになったという「なんとなく」の連続の中に生きる、川上弘美・著『なんとなくな日々』(岩波書店)。著者の語り口があまりにもさらっとしていたので、つられてこちらもさらっとさっくり読んでいたら、妙にひっかかる箇所がいくつか出てきた。思わずふふふっと笑って、にんまりしている自分に気づく。何々、全然さらっとさっくり読めていないじゃないの。そんなふうに自分で自分にツッコミながら、川上弘美的日常に浸った。

 このエッセイは、「台所の闇」「なんとなくな日々」「平成の蜜柑」の3部構成。「台所の闇」では、台所という場が孕む闇の内実や中学時代に観た映画の思い出などが語られる。「なんとなくな日々」では、食・旅・本・服などをテーマにした25本の味わい深い日常エッセイが楽しめる。「平成の蜜柑」は、中日新聞に連載されていたエッセイ。生活の中でふと目にとまった事への著者の思いが綴られている。あとがきの“エッセイなんて、か、書けっこないし、やっぱりその昔読んだようなちゃんとしたエッセイのようなものは、か、書けてない”という文章に何だかほろりとなってしまった。そんなこと言われたら、もう1度読み返したくなるじゃないの、と。

 私のツボにはまった2つのエッセイについて書いておく。1つ目は、なんとなくな日々5。寒い日、横道に入ったところにあるピザ屋にて、犬を連れて道を通る姿にふと目を留める著者。すると、小さな老婦人が、ペキニーズを連れてしずしずと歩いてくる。そのうち、老婦人がペキニーズを抱き上げた。ペキニーズは一声もなく、じっと抱きしめられたまま眠ってしまったらしい。老婦人は、背中にしょっていたリュックにペキニーズをしまい込む。ファスナーを閉めると、ペキニーズは影も形もなくなる。老婦人はそっとリュックを背負い直してしずしずと去っていく…というもの。奇妙だ。何かがおかしい。けれど、具体的にどこがおかしいのか答えることができない。うーん、なんとなく変なのだ。

 そして、2つ目。なんとなくな日々17である。寒くなったせいなのか、電球が続けざまに切れるというお話。電球だけでなく、乾燥機の動きもおかしい。台所の蛍光灯もおかしい。それらのモノが著者に言った言葉を綴っているのだが、“やっぱり、言ったように思う”だったのが、次第に“たしかに、そう言った”になり、“やっぱり、言った。たしかに、言った”に変わってゆくのがいい。例えば乾燥機。まわっている途中に、突然止まる。フィルターの汚れかと思って掃除しても。止まる。「ためにし動いてみたんですが…」という感じで働きぱたっと止まってしまう。蛍光灯は「あの、そろそろ、行きますね」と、息絶えるときに言葉を残してゆく。川上弘美的日常は、愉快だ。

4000015532なんとなくな日々
川上 弘美
岩波書店 2001-03

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