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2005.06.29

晩年の子供

IMG_0042 幼い頃の少女の時間に、思い出される断片的な記憶や目に映った景色ひとつひとつを、丁寧に紡いで小さな物語にしたような、山田詠美・著『晩年の子供』(講談社文庫)。この小説と出会ってから、もう10年くらいの月日が流れたのだが、いつ読んでも新鮮な感じがするのはなぜだろう。8つの短編は、どれもドキリとさせる子供心の残酷さと生意気さを秘めていて、大人と言われる歳の私をするりと幼い記憶の中に引きずり込む。それは、どきまぎするほど怖いような、ぞくぞく鳥肌がたつような面白さである。

 特に印象深かった3つの短編について書いておく。まず、1つ目。「海の方の子」という話。こまっしゃくれた転校生の少女が主人公。この主人公、たったの9つながら実に小生意気である。周囲の子供たちよりも、様々なことを知っていると自負し、自分の役割というものを熟知しているのだ。どれだけ自分が注目を集めているのか、どんな態度であれば人から好かれるのか、そういうことを全て計算ずくなのだ。そんな少女が、教室で一人嫌われている男の子に近づいていく。この男の子が、実に賢い。ある意味では、少女とよく似ているとも言えるのだけれど。2人のやりとりがなかなか面白い。

 2つ目は、「蝉」。これには、子供の残酷さがよく描かれている。蝉のおなかをちぎってしまう場面から始まる。そして、人間の性についての気づきや目覚めのようなものへと話は展開してゆく。ある日、自分を一人きりにして病院へと出かけてしまった母親。置き去りにされたような寂しさ、そのお腹の中にある新しい生命への違和感…そういうものがダイレクトに読み手に伝わってくる。一言で言ってしまえば、痛い話。けれど、痛さだけにとどまらずに、夏の暑さがさらに味を添えて、自分とは一体何者なのかと考えて立ち止まったり、何もかもが苛立ちに変わったり、少女の心をいろんなものが侵蝕してゆく。

 3つ目は、「堤防」という話。この中には、幼いながらにしての心の揺らぎが繊細に描かれている。この主人公は、自分に自信を持たない。自力で努力して何とかしてやろうなんてことを、全く考えない主義である。劣等感を感じて、その存在を認めて、すんなり諦めてしまう。“こうなったのは運命なんだよ”なんていうのが口癖で、マイペースを貫く。その何ものにもとらわれない感じが、周囲にはひょうきんにすら思われてしまうが、大人からの視線は冷たい。印象深かったのは、少女とその父親との関係。とってもいい雰囲気で、思わずため息がこぼれてしまった。父親と娘が、人生について語り合うなんて照れくさいことこの上ないから。あぁ、でも今夜ほんの少し語るのもいいかななんて、思うのだった。

4061858297晩年の子供 (講談社文庫)
山田 詠美
講談社 1994-12

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