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2005.06.02

猫町

20050601_021 妖しいほどに美しく幻想的な独特の世界へと誘ってくれる文章と装画が、見事にコラボレーションした本である、作・萩原朔太郎、画・金井田英津子『猫町』(パロル舎)。詩人として有名らしい萩原朔太郎(1886-1942)のことは、ほとんど何も知らない。著書である「月に吠える」や「青猫」のことも名前くらいしか聞いたことがない。そんな私でも、この『猫町』の世界にすっと入ることができた。

 “猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫。どこを見ても猫ばかり。いつもの角を曲がったら、そこは夢現・無限のめまい町。ノスタルジックでモダーンなイラスト紀行”という宣伝文句だけで、猫好きな方なら即読みたくなってしまうだろう。もちろん、特別猫が好きではない方も。それに加えて、猫の視線で描かれたイラストが不思議な旅の世界に誘ってくれるのだ。いろんな意味合いで、これはトリップ小説の部類に入るのかもしれない。

 独特な方法で旅を続ける主人公。(たぶん)彼は、夢と現実との境界線を巧みに利用し、主観の構成する自由な世界に遊んでいた。元来、磁石の方角を直覚する感官機能に何らかの欠陥をもっているため、道の覚えが悪かったり、見慣れない土地で迷児になったりしていた。その上、道を歩きながら瞑想に耽る癖があった。だから、方角観念の錯誤のために狐に化かされたようになった。どうやら方角を知覚する特殊の機能は、耳の中にある三半規管の作用らしいことを主人公は知っている。

 北越地方のKという温泉地にて、繁華なU町へ向かう途中に主人公は道を無くす。幾時間かの後、思いがけない意外の人間世界を発見する。繁華な美しい町並みは、美術的に変わった風情で意匠され、かつ町全体としての集合美を構成していた。それは古雅で奥床しく、町の古い過去の歴史と、住民の長い記憶を物語っていた。けれど、美学的に見えた町の意匠は、単なる趣味のための意匠ではなく、もっと恐ろしい切実の問題を隠していた…

 物語の展開は、不気味さを増して街灯の少ない夜の町を迷い歩くような感覚とつながる。人の気配はない。微かに聞こえるのは、虫の声だけ。思わず速くなる歩調。乱れる呼吸。ときどき伸びる影。気がつけば、流れる汗…何とも不思議な味わいである。物語の世界に迷い込んで、浸って、感じて、楽しめる作品である。この『猫町』と同じパロル舎の文学絵草紙シリーズは何冊か出ていて、他に夏目漱石の『夢十夜』、内田百閒の『冥途』、宮澤賢治の『ポラーノ広場』などがある。

4894191679猫町
萩原 朔太郎
パロル舎 1997-11

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コメント

ましろさん、お久しぶりです!
「猫町」、先日私も読んだところなのでTBさせて頂きました。
ほんと文章と装画が素晴らしいコラボレーションになってましたね。
隅々まで気持ちが行き届いていて、本当に大切に大切に作られた
本なんだなあと思いました。
荻原朔太郎の物語も、するっと世界に入れてもらえる感じで
とても良かったです♪
「夢十夜」と「冥途」もほんとすごいです。ぜひぜひ。
パロル舎からは宮澤賢治作品も色々と出てますよね。
こちらは未読なんですが、いつかぜひ読んでみたいですー

投稿: 四季 | 2005.06.03 09:19

ましろ姫は、本当にニャンコが好きですな~。
ま、僕もワンコが好きだけどね♪
実は先日、あるワンちゃんの専門誌から、「ぜひデミアン様のティナちゃんを、モデル犬として撮影させてほしい」とのメールがきました。
びっくりしましたよー!
残念ながら、撮影日に都合をつけることができず、断念することになりましたが、次にチャンスがあったら、必ず撮影してもらおうと思います。

投稿: デミアン | 2005.06.03 09:47

四季さん、コメント&トラックバックありがとうございます。
パロル舎の本、とってもいいですよね。
文学絵草紙シリーズ、全部読んでみたいです!
こういう文章と画との素晴らしいコラボレーションの本なら、少々高くても手元に欲しいです。
「冥途」も読んだので、載せようと思っています。

投稿: ましろ(四季さんへ) | 2005.06.03 18:58

デミアンさん、コメントありがとうございます!
はい、姫はニャンコが好きですの(笑)
デミアンさんのゴールデンは、ティナちゃんというんですねー♪すごく可愛い&賢そうだもの。モデル犬にぴったりだと思います。
うちのアリアは、毛がはえかわったらどんどんゴールデンから遠ざかってしまって…大きい柴犬のようです。もちろん、柴犬だって可愛いです。

投稿: ましろ(デミアンさんへ) | 2005.06.03 19:09

ましろさんこんばんは。
この三冊、僕も大切に持ってます。
あまりにも版画が良いのと、よりによって「この三冊」だったのとで、もう一目ぼれしてしまいました。(なかなか良いお値段でしたが…)

ただでさえ不思議な話が、画との相乗効果でますます不思議の世界に。
「トリップ小説」というのはぴったりだと思います。

全然たいしたことは書いてないので恐縮ですが、自分も以前この本の記事を書いたことがあるので、トラックバックさせてください。

投稿: トージ | 2005.06.04 00:43

トージさん、コメント&トラックバックありがとうございます!
金井田英津子さんの画、いいですよねー。うっとり惚れ惚れしてしまいます。
三冊お持ちとは、羨ましいです。私は図書館で借りましたので。
現実逃避が好きな私には、トリップできるこういう本が何ともしっくりきてしまうのですが、母親は“何なの、このコワイ本は…”と言っておりました。
もしや、母の方が乙女なのかしら。

投稿: ましろ(トージさんへ) | 2005.06.04 10:52

ましろさん、こんばんは!
「猫町」素敵でした~。金井田さんの画も猫町の雰囲気にとても合っていて何倍も楽しめました。出来るならば手元に置きたいものです。
3冊いっぺんはちょっと勇気がいりますが…。
そしていつもながらましろさんの文章にうっとりです(*^-^*)

こちらからもトラックバックさせていただきますね。

投稿: リサ | 2005.08.18 22:31

リサさん、コメント&トラックバックありがとうございます。
なかなかいいお値段の本なので、3冊いっぺんに手元に置くことは難しいですよね。
でも、いつか必ず…と密かに企んでおります!

うっとりしていただけて、とっても嬉しいです。
読み返してみたら、どっぷり浸っていて自分でもびっくりデシタ。

投稿: ましろ(リサさんへ) | 2005.08.19 17:56

ましろさん、こんばんわ。
美しい本ですよね。本を開いただけで、不思議の世界に連れ去れるような気がしました。
私も手元に置きたいです・・。

投稿: june | 2006.03.12 20:57

juneさん、コメント&TBありがとうございます!
ホント美しいです。いいですよね、こういう本。
まだ手元にないのが、ものすごく悔しい…
いつか、必ず!と思っております。

投稿: ましろ(juneさんへ) | 2006.03.12 23:57

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