« 猫と庄造と二人のおんな | トップページ | なんとなくな日々 »

2005.06.07

龍宮

20050601_072 何とも不思議なお伽噺のような、ヒトとヒトにあらざる異形のものとの交感を描いた短編連作集、川上弘美・著『龍宮』(文藝春秋)。8つの話は、どれもこれも全てがおぼろで、水の中に漂うようにゆったりとした時間が流れているように感じられる。身も心も流れにまかせてたゆたえば、心地よい雰囲気に思いきり浸れる物語。死後の世界でもなく、現実でもなく、夢でもなく、幻でもない。それぞれの境目をこっちへあっちへと自由に行き来している。あぁ、そうか。ならば、どこでもいいのだ。どちらでもいいのだ。そんなことを思う。

 昔、蛸であったと自称する男が人間界での波瀾に満ちた話をする「北斎」。曾孫の前に突然現れた、放浪の果て自然神となった曾祖母の物語の「龍宮」。狐の面持ちをした老人と訪問ヘルパーの奇妙な共同生活を描いた「狐塚」。社宅に住む主婦と彼女の心の空白を埋める台所に住む神との日常を綴った「荒神」。生への気力を喪失した人間を拾い集めるもぐらを主人公にした「うごろ鼠」。7人の姉を持つ主人公の美しくも残酷な姉巡りの旅を描いた「轟」。7代前の先祖に一目惚れをした二百歳を超えた女性の愛の物語「島崎」。様々な男に譲り渡され飼われてきた女が、かつて暮らしていた海に帰還していく「海馬」を収録している。

 この本の中では、ヒトにあらざる異形のものは目に見えるかのように描かれているのだが、実は実態のない心とか魂とかなどと呼ばれるものなのではないだろうかと考えることが出来る。いたるところで、おおらかに思うままに交合するヒトビトが描かれているのに、なまなましさやいやらしさが感じられないのは、きっとそのせいなのではないだろうか。そうだとすると、交合というのは、心と心の結びつきのような精神的なものなのかもしれない。どうやら説話をモチーフに書かれた物語のようなので、基となっている物語をたどってゆけばもっと違った読み方が出来るかもしれない。

 それから、もうひとつ注目して読んでいたことについて書いておく。それは、ヒトとヒトにあらざる異形のものとの関わり合い方について。この物語の中で、ヒトは何となくまあそんなものでしょう的な感じで、異形のものと接している。普通だったら、腰を抜かすのでは、もの凄くじろじろ見るのでは、差別だってするのでは、などと思うところなのに何でも受容してしまうのだ。抵抗もせず、反発もせずに。その脱力感と受容力に脱帽である。私たちの生活の中に根付いている常識を頑なに持っていては、異形のものとの近づけないのだろう。ヒトは、知らぬうちに自然とヒトにあらざるものへと変わってゆくのだろうか。そう考えていくと、物語が少々怖いものへと変わる。コワ。

4167631040龍宮 (文春文庫)
川上 弘美
文藝春秋 2005-09-02

by G-Tools

もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…
にほんブログ村 本ブログへ←好きになっています!

|

« 猫と庄造と二人のおんな | トップページ | なんとなくな日々 »

15 川上弘美の本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

川上さんの「龍宮」の感想をアップしましたが、正直なんて書いていいかわかりませんでした。文章力のある人だなぁと思ったんですが、設定が難しかったです。
リンクとTBさせて頂きました(感謝)

投稿: 早乙女 | 2005.07.24 16:57

早乙女さん、コメント&トラックバックありがとうございます。
「龍宮」、とっても難しいですよね。何度も読み直して記事を書いた覚えがあります。
物語に浸るには、心地よいものでした。

投稿: ましろ(早乙女さんへ) | 2005.07.24 18:36

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/4460630

この記事へのトラックバック一覧です: 龍宮:

» 龍宮  川上弘美(文芸春秋) [作家志望の日々]
龍宮川上 弘美文藝春秋 2002-06-27売り上げランキング : 169,349Amazonで詳しく見る by G-Tools おとぎ話を現代風にアレンジした短編が収められている短編集。 登場人物は蛸であった男や、何百年も生き続けている人などほとんどファンタジックな世界。 川上さんの優しい文..... [続きを読む]

受信: 2005.07.24 16:53

« 猫と庄造と二人のおんな | トップページ | なんとなくな日々 »