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2005.05.11

コイノカオリ

20050511_009 同じシャンプーの匂い、小皿にのったレモンの薄切り、ゆるくつけた香水、彼のタバコや汗の匂い、好きな人に作った特別な料理…などなど、柔らかい恋の香り&匂いをモチーフにした『コイノカオリ』(角川書店)。繊細に、あるいは大胆に綴られた、6つのラブストーリーが心地よかった。名を連ねるのは、角田光代、島本理生、栗田有起、生田紗代、宮下奈都、井上荒野という顔ぶれ。

 角田光代さんの「水曜日の恋人」は、多感な年頃に感じる気持ちが丁寧に描かれたお話。水曜日、中学生の主人公は、母親のデートに付き添う。同じシャンプーの匂いのするイワナさんと母親のことを思いながら、誰かを好きになるということ、どんな関係にも終わりが来るということなどを知る。誰とも出会わなかったように、出会ったことの意味などなかったかのように、忘れることも忘れられることも“こわい”という主人公の気持ちが印象深かった。この“こわい”ことを繰り返して生きている自分を、少し恥じた。

 宮下奈都さんの「日をつなぐ」は、小さな赤ん坊のいる女性が主人公。赤ん坊の泣きじゃくる姿に、その存在に、子育てをする主婦という職業に対して抱く思いが心につんときた。寝不足で、疲れていて、気が滅入っていて、頭が痛くて…それなのに料理をしようとしているなんて。しなければいけないなんて。何か間違っているのではないか、どこかおかしいのではないかと思わずにはいられないお話。救いに思うことができるラストが、全てのおしまいにも感じられて、痛いイメージばかりが印象に残ってしまった。けれど、6つのお話の中では一番好きだと思える作品だった。

 井上荒野さんの「犬と椎茸」は、30年も音信不通だった友人からの“会いたい”との電話から始まる。主人公が会いたくないという気持ちをずっと抱えていたことを知っているはずなのに。人伝に連絡先を辿ってまで、なぜ。そうして、ずいぶん痩せて美しくなった友人は言う、“夫と寝たことはないか”と。海の向こうの存在となっていた友人の夫に、奇妙な友人の言動と行動に、さらに疑問を感じる主人公。物語の後半を知れば、その不可解さも頑なさも妙に納得できるもの。女という生き物の裏側を垣間見ることができたような気がした。この物語の女たちのように、私もさいごまで強がりを見せるのかもしれない。そう、あの人の前では…そんなことを思った。

 6つの物語は、それぞれの作家の個性をどれも主張していて、とても楽しめた。全ては書ききれないので、特に印象深かった3つだけを取り上げてみた。タイトルどおり、“コイノカオリ”がしてくる物語。ぜひ、一読アレ。

4043726058コイノカオリ (角川文庫 か 39-50)
角田 光代
角川書店 2008-02

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コメント

こんにちは。
宮下奈都さんの「日をつなぐ」、柊も一番好きな作品です。
文章から受け取るイメージがとても繊細で…
宮下さんの小説、もっと読んでみたくなりました。

投稿: | 2005.05.12 08:50

柊さん、コメントありがとうございます。
宮下さんのお話、よいですよね♪あまりにも気に入ったのでネットで検索してみたのですが、『コイノカオリ』以外ヒットしなくて…
もっと読んでみたい作家さんが一人増えました。

投稿: ましろ(柊さんへ) | 2005.05.12 17:33

はじめまして。
「コイノカオリ」とても感受性くすぐられるアンソロジーで
読み応えがありました。
一番、印象に残ったのは角田光代さんの作品で
普段何気なく使っている日常アイテムにも
恋愛の鍵を握られていると思うと
どきっとしましたし、うれしくもありました
恋ってすごく残酷ですよね

投稿: 土居達郎 | 2005.06.02 14:22

土居さん、コメント&トラックバックありがとうございます。
そうですね。恋って、ときには残酷なもの。
けれど、残酷だからこそ夢中になってしまうのかもしれません。
そして、男性と女性とでは見ているものが違うのかもしれません。感じ方も考え方も。
そういう違いにドキドキしたり、ときめいたりするのかなぁと思います。

投稿: ましろ(土居達郎さんへ) | 2005.06.02 22:41

お久しぶりです、TBさせてくだい

投稿: 桜井 | 2005.10.15 16:04

桜井さん、コメント&TBありがとうございます!
いつでも歓迎しております。今後も宜しくお願い致します。

投稿: ましろ(桜井さんへ) | 2005.10.15 16:43

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収録作品「水曜日の恋人」角田光代「最後の教室」島本理生「泣きっ面にハニー」栗田有起「海のなかには夜」生田紗代「日をつなぐ」宮下奈都「犬と椎茸」井上荒野「最後の教室」以外は書き下ろし作品です... [続きを読む]

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» コイノカオリ / 角田光代 他 [書庫  ~30代、女の本棚~]
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