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2005.05.25

光ってみえるもの、あれは

20050511_004 青春小説というものは、とっても苦手だ。読んでいると、何となくモヤモヤしてくるのだ。そのモヤモヤはいつのまにか熱いものに変わって、かっかした怒りに変わってしまう。“○○○っていうのは、なんなんだろうなぁ…”みたいなお約束のことをふとつぶやくなんていうシーンが出てきたら、即却下である。そもそも“青春”という言葉の響きやイメージが、ものすごく照れくさく恥ずかしい。それなのに「好きな作家の作品だから」という理由だけで読んでしまった。

 16歳の江戸翠という少年の高校生活を描いた青春小説、川上弘美・著『光ってみえるもの、あれは』(中央公論新社)。翠には、未婚の母と母方の祖母と共に暮らしている。ふらりとたびたびやってくる遺伝子上の父がいる。その存在をうっとおしく思いながらも、彼の人間的なところに惹かれていく。高校生の男の子の複雑な心の動きをリアルに描いた小説である。私の苦手なお約束のシーンも、もちろん出てきたのだが…熱くなりそうなところで妙に冷静だったり、もっと探り合うのかと思うところで言葉がなかったりして、少々ひねくれた青春小説だった。

 この小説は、ずっと16歳の翠少年が語っていくかたち。この翠少年、実にクールである。まず、母親のことを“お母さん”とは呼ばずに“愛子さん”と呼ぶ。“おばあちゃん”ではなく、“匡子さん”と呼ぶ。母親も自分のことを“あたし”と言うし、祖母も“アタシ”と言っているからなのだろうけれど。翠少年は、母親らしくない母親でわざわざあろうとする志向に対して違和感を感じながらも、あえてその思いを受け流しているのだ。だから、親と口論になることはない。それだけでなく、親友や恋人とのやりとりを見てもクールであり続ける。一言で言ってしまえば、“他人に対する興味があまりない”感じなのだ。

 主人公である翠少年がクールなせいか、彼を取り巻く周囲の人々がとても人間味溢れた魅力的な人物に映った。とある場所で経験した圧倒的な現実感を取り戻すべく、女装を選んだ翠少年の親友の存在も決して奇異には思えなかった。あぁ、彼にはそういう時間も必要だったのだろうと納得してしまった。翠少年の恋人が、親に見られたくない日記や手紙を鞄に背負うほどたくさん持ち歩いていることだって、当然でしょう的な気分で頷いていた。あぁ、そうそうそうだよねと。読み終えて考え直してみると、私の感覚はおかしいのかもしれないとも思うのだけれど。翠少年がよく言ってしまう“ふつう”というのは、何とも曖昧な言葉だと今さらのように強く感じてしまった。

 そして、この物語の中で一番魅力的な人物だったのが、翠少年の担任の国語の先生である。苦しそうなかすれた声で「書き言葉」で喋る。独特の固い言い回しが、几帳面さや不器用さを感じさせる。教師たちと交わるのが下手なところも、俳句や詩を用いて話をするところもいい。私の想像の中では、芥川龍之介にそっくりだったH先生と重なってしまった。もちろん国語の先生だ。その思い出は、もしかして“青春”なのか…?懐かしい気分も手伝って、一気に読めた小説だった。

4122047595光ってみえるもの、あれは (中公文庫)
川上 弘美
中央公論新社 2006-10

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コメント

こんにちは♪
この小説、読売新聞の連載小説だったんですよー。
当時私はまだ川上さんのこと名前ぐらいしか知らなくて…。
よくよく思い出してみればこの小説が私にとっての初・川上作品☆ですね。
でもその時はなんか変なお話だな~みたいな感想を持ったような気がする…。
その後初めて買った文庫本ではすごーくはまってしまったのだけど、
それがこの小説と同じ作家さんの作品だったとはしばらく気がつきませんでした。(笑)

投稿: ゆら | 2005.05.27 02:15

ゆらさん、コメントありがとうございます。
おぉー!この小説が初・川上作品だったのですかぁ。確かにちょっと変かもしれないです(笑)これまでの川上作品とは全然違いましたし。
ちなみに私の兄も、父のことも母のことも主人公の翠少年みたいに名前で呼んでいます。以前は“旦那さん”&“奥さん”でしたが。


投稿: ましろ(ゆらさんへ) | 2005.05.27 20:34

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