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2005.05.07

放課後の音符

20050501_026 山田詠美著『放課後の音符(キイノート)』(新潮文庫)。私がこの本と出会ったのは、中学時代のことだった。まだ幼かった私にとって、描かれる17歳の女の子たちの恋愛模様はずいぶんと大人に思えた。今思えば、精一杯の背伸びに感じられるのだけれど。彼女たちの揺れ動く心は繊細で感受性豊かで、それでいてどこかもどかしくて、気がつくと私は強く憧れの気持ちを抱いていたのだった。周囲の友だちよりも、ほんの少しだけ早く読み終えたことが誇らしかった。

 この小説の中には、小道具がたくさん出てくる。アンクレット、香水、ピアス、マニキュア(ペディキュアとして使う)、シンプルなレターセット、お酒、煙草、赤い口紅…などなど。出てくるものにいちいちため息がこぼれたものだった。だから私は、秘かにそれらを集めた。誰にも気づかれないように、唯一持っていたシルバーのネックレスを足首に巻いてみたり、微かにムスクの匂いのする香水をつけたり、目立たない色のマニキュアを塗った。手紙を書くときは、色合いがきれいな無地のものを使った。

 それから、この小説の中の語り手が憧れる女の子のように群れなかった。女子校に通っていた私にとって、それはクラスからはみ出すことであった。まあ、男の子のいないところではみ出してみたって、無意味で無駄な労力でしかないのだけれど…。都合のいい器用さは、私にはなかったのでしかたない。群れないからには、テキストどおりに“静かに読書”しかなかった。幸い私は本が大好きだったので、苦にならなかった(これは小学校からやっていることでもあったし)。騒々しいおしゃべりの中、明らかに私は異質な存在となっていた。

 異質というのは、ときには残酷な運命をたどるものである。けれど上手くいけば(たまには輪の中へ入る工夫が必要)数名は、“何、読んでいるの?”などと話しかけてくるものだ。そういうとき、読んでいる本は難し過ぎてはいけないし、易し過ぎるのもいけない。漫画というのは論外(決して嫌いなのではなく)である。いわゆる名作と呼ばれているものも、避けた方がよかった。読書家を名乗る担任(男)が唸るような、“こんな小説を読むのか…”と思わせる作品がベストだった。例えば、山田詠美の作品だったら『ぼくは勉強ができない』ではなく、『風葬の教室』や『蝶々の纏足』を選ぶとか。三島由紀夫の作品だったら『潮騒』ではなく、『禁色』を選ぶとか…

 振り返ってみると、私はかなりのはみ出し者であった。クラスからは浮きまくり、担任には逆らい、ミッション系の学校だというのにまともに祈ることなどなく(礼拝をやりたくない旨をレポート用紙にまとめて何度も提出していた)、進級に必要最小限の出席日数しか学校には行かず…。今となっては全てが懐かしい。もちろん、その当時の恋も。この『放課後の音符』と共によみがえるのだった。

 ≪山田詠美の本に関する記事≫
  『ベッドタイムアイズ』(2005-03-08)
  『風葬の教室』(2005-02-28)

4101036152放課後の音符(キイノート) (新潮文庫)
山田 詠美
新潮社 1995-03

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