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2005.05.10

かなしみの場所

20050501_012 言葉にできない心に染みゆく思いというものを。生きていく、その愛おしさを。ここにあるという、そのせつなさを。そういうものを静かに密やかにゆったりと描かれた大島真寿美著『かなしみの場所』(角川書店)。初めて読んだ大島さんの小説は、あまりの心地よさにすっぽりと包まれて思う存分浸ることができるものであった。主人公の果那の作る雑貨、梅屋と果那をとりまく人たちの雰囲気、語られる思い出など、全てが穏やかに流れているような気がした。

 主人公の果那は、寝言をいう。それは、どうやら幼い頃に誘拐されたことが関係しているらしい。そのことを夫に追求されたことが原因(寝言のことだけではないと思うが)で、離婚してしまった。何が何でも別れなくてはと思う自分を勝手過ぎるのではないかと不安に感じ、せめて嫌いになった理由くらいは見つけなくてはと焦り…とうとう神経がまいってしまったことに気づくのだった。そのうち、誰かに寝言を聞かれるのが恐くなったのか、誰かと同じ部屋ではもちろんのこと、自分の部屋でも眠れなくなってしまった。

 この“眠れない”という気持ち、その上“恐い”という気持ち、わかるなぁ…と真っ先に思ってしまった。眠ることが何とも恐くなってしまう。必要以上に周囲が気になる。神経過敏と言われようが、過剰反応だと言われようが、些細な変化に神経がさわるのはどうしようもない。しかも、触れられたくないことが関係してくるとなると、なおさらのことである。それに、眠れないということは意外と相当な体力を消耗するものである。眠れないというだけで、神経は全く休まらないのだから。もしかしたら、“眠る”ということは生きる上で最も大切なことなのではないかとすら思う。

 それから、物語の所々に登場する“錦紅堂“の和菓子が何ともよい佇まいである。登場人物たちのいる風景に色を添えて、季節感を感じさせるものとなっている。羽二重餅、栗羊羹、薄紅桜、柚まんじゅう…などなど、思わず想像して食べている気分になっていることに気づく。主人公の父親のように特別甘党というわけでも、“錦紅堂“のファンというわけでもないのに。ずっと前から食べ続けているみたいに。鼻から抜けるような香りだとか、思いっきり豊かな気持ちにさせてくれるような幸福感だとか。

 そっと抱きしめたくなるような様々な思いを、感覚を、気配を、記憶を、主人公と共に味わえたような気がする。感じることができたような気がする。まだ見ぬ世界がたくさんあることを心待ちにしながら。そうして、自らの居場所をゆっくり探そうと思わせてくれた。決して焦る必要などないのだからと。

4048735349かなしみの場所
大島 真寿美
角川書店 2004-06

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08 大島真寿美の本」カテゴリの記事

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コメント

ましろさん、お久しぶりです。
大島真寿美さんの「水の繭」を読んだのは、もうずいぶん前のこと。タイトルと装丁にひかれて買ったのですが、読んでみたら、とても好きな世界で。そのときには、この人の本が出たらまた買おうと思っていたのに、なぜかそれっきりになっていたのでした。
ましろさんの文章を読んで、あ、そうだ、この人がいたじゃないか、と。
思い出すことができて嬉しい。どうもありがとう。
「かなしみの場所」読んでみますねー。

投稿: ミメイ | 2005.05.11 01:22

ミメイさん、コメントありがとうございます。
お久しぶりです♪記事を読んでいただけて、とってもとっても嬉しく思っております。
そう、「水の繭」って、すごくキレイなタイトルと装丁ですよね。私も思わず惹かれて手にとってみたのですが、初めて読む大島さんの本でしたので最近のものの方がよいのかしらと「かなしみの場所」を読むことにしたのデシタ。
予想以上に気に入ってしまった作家さんなので、他の作品もいろいろ読んでみようと思っています。ミメイさんの好きな世界だったという「水の繭」、ますます興味がわいてきました。

投稿: ましろ(ミメイさんへ) | 2005.05.11 13:55

こんにちは♪
「初・大島真寿美さん」なのですね。
大島さんの作品の空気っていいですよね。(^-^)
私は大島さんの本はまだ2冊しか読んでいないのですが、
「ちょっと傷ついた心」をテーマにした作品が多いのかなーと思いました。
でも柔らかな感じで最後まで読み終えられるので、
そんなところがとても好きです。

投稿: ゆら | 2005.05.12 05:16

ゆらさん、コメントありがとうございます。
ブログの記事、読ませていただきました♪きっと、ゆらさんのところで大島さんの名を知ったのでは…と思います。私も好きになりました。あと2冊くらい読んだら、“大好き”だと言ってもよいのかしらと。早くそう言いたいです。ウズウズします。
『宙の家』も早く読んでみたいです。

投稿: ましろ(ゆらさんへ) | 2005.05.12 17:21

ましろさん、こんにちは!
もっと早く書き込もうと思っていたのに
すっかり遅くなってしまってごめんなさい。
大島さんの本の感想、他の本のも合わせて
全部拝見させていただきましたー。
そしてその中で一番気になったのが「ほどけるとける」。
ましろさんが先日とても良かったと書いて下さった
作品でしたよ!
あと、「ちなつのハワイ」も気になります。
この方の雰囲気、児童書を書いた時に
とても生かされるのではないかしらという気がして…
今度探してみますね(^^)。

投稿: 四季 | 2006.08.25 16:39

四季さん、コメントありがとうございます!
しかも、全部の記事を読んでくださったなんて…!!!
感激です。とっても嬉しいです。そして、恐縮です。

そうですね。児童書の雰囲気は、やっぱり魅力的でしたよ。
著者の人柄を思わせるような…ほのぼのやわらかしなやかな。
(って、実際はどんな方なのかは知らないのですが)
最新作の「ほどけるとける」も、そこに漂う雰囲気が素敵でしたよ。
なんとしても全作品制覇したい作家さんです!

投稿: ましろ(四季さんへ) | 2006.08.25 20:00

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