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2005.05.29

逃亡くそたわけ

20040920_045 精神病院を脱走して九州縦断ドライブを繰りひろげる、絲山秋子・著『逃亡くそたわけ』(中央公論新社)。まず、“くそたわけ”って…と誰もが思うだろう。どうやら名古屋弁の罵り言葉らしいのだが、何とも強烈な印象を残す言葉だ。登場人物は、博多弁の躁病の花ちゃん、名古屋出身なのにそれを恥じて東京者のふりをしている鬱病のなごやん。価値観の違う2人の会話は、「こてこての博多弁」対「フェイクの標準語」の戦いみたいで笑いを誘う。

 2人の逃亡劇は、病気を抱えていることもあってかなり大変なもの。“亜麻布二十エレは上衣一着に値する”という意味のわからない幻聴、自分のことを殺そうと企む複数の男女の幻覚、ぐっすり眠れずに早朝覚醒してしまうなど、様々な症状と共にどこかを目指して進むのだ。しかも、逃亡手段である車は昭和の時代のトヨタのルーチェ(ちなみに名古屋ナンバー)。車のことはよくわからないが、真夏にクーラーの壊れた車で博多から指宿までの1000㎞の道のりを行くと聞くだけでため息が出てしまう。

 そして、2人の逃亡はもの凄く危険極まりないものである。無免許運転、無銭飲食、当て逃げなど、物語の続編があったのならば刑務所行きになってしまうほどだ。捕まらないようにと人混みの中に紛れるように気をつけるものの、2人はのんびり観光を楽しんだりショッピングをしたりして危機迫る感じがほとんどない。あれ、いいの?大丈夫なの?そんなことしていても平気なの?なんて、読んでる方がドキドキ緊張してしまった。途中、2人が薬を調達するために立ち寄るクリニックでは、医師にあっさりと逃亡していることを見抜かれてしまうのだから。油断し過ぎだ。

 この物語の中で考え深かったのは、“人は見たいようにしか見ない”という言葉である。この言葉をなごやんが花ちゃんに放った詳しい理由は定かではではないのだが、どうやら東京から福岡に転勤になったことが関係しているらしいとわかる。東京から見たら、福岡も何も全部が九州。外国みたいなものだと、かつてのなごやんの恋人もなごやん自身も思っていたのだった。その考えが間違っていたことを知っても、今となっては仕方がないことも。自分のことを自分で思っているようには、他者は思ってくれないことと同じように。

4062758067逃亡くそたわけ (講談社文庫)
絲山 秋子
講談社 2007-08-11

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コメント

こんにちは!
これお話がムチャクチャですよね。(笑)
いろんな感想があるとそのムチャクチャさが伝わって面白いかなー、と思ったので、
トラックバックさせていただきました♪

投稿: ゆら | 2005.05.30 04:20

こんにちは。
これ…強烈なインパクトを残すタイトルですよね☆
柊はまだ未読なので、読むのが楽しみになってきました。

投稿: | 2005.05.30 09:03

ゆらさん、コメント&トラックバックありがとうございます!
ホント、むちゃくちゃ(笑)
この本を読んだのは、ゆらさんのブログの記事がきっかけだったのですが、よく読むと注目どころが違っていて面白いです。
私の方からもトラックバックさせてください。

投稿: ましろ(ゆらさんへ) | 2005.05.30 15:36

柊さん、コメントありがとうございます。
タイトルだけでなく、内容も強烈なインパクトでしたよ。柊さんは、どこに注目するのかしらと興味津々です♪
最近、あみねこがとっても気になってます!今は眺めてるだけなのですが、いつか作りたいと思っています。

投稿: ましろ(柊さんへ) | 2005.05.30 15:46

初めまして!昨日はブログにコメントを頂きありがとうございました。
向こうにも書きましたが、以前からこっそりこちらを拝見していましたので、コメントを頂いてかなりびっくりしました。
これからもどうぞよろしくお願いします。

「逃亡くそたわけ」、(タイトルが)かなり気になっていたのですが、これは面白そうですね!
実は九州福岡に住んでいるので、ローカル具合も楽しめそうです。
ぜひ読んでみようと思います!

投稿: トージ | 2005.05.31 01:22

トージさん、コメントありがとうございます。
こちらに来てくださっていたのですね。私の方もびっくりです。そして嬉しいです。トージさんの読まれている本の並びが、何ともよい佇まいで大好きです。こちらこそ、今後もよろしくお願い致します!

九州の福岡に住んでいらっしゃるなら、きっと10倍くらい楽しく読めるかもしれませんね。私は地理が苦手なもので、ほとんどが聞いたことのない地名ばかりでした。それから、方言もよくわからず、ニュアンスで楽しみましたので。トージさんの記事を楽しみにしております。

投稿: ましろ(トージさんへ) | 2005.05.31 16:04

今、丁度読んでいるところで驚きました!
また感想を書いた時にはTBさせてくださいね。

投稿: 桜井 | 2005.05.31 17:54

桜井さん、コメントありがとうございます!
おぉ、読んでいるところでしたか。本が人を呼んで、人と本&人と人が繋がるとっても素敵な偶然ですね♪
ぜひぜひTBしてくださいまし。いつでも歓迎しております。

投稿: ましろ(桜井さんへ) | 2005.05.31 18:07

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