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2005.05.21

覆面作家の夢の家

20041121_002 思わず絶句してしまうほどの美貌、名探偵の才を備えたミステリー作家「覆面作家」こと新妻千秋と編集者の岡部良介の名コンビが謎を解き明かす<覆面作家>シリーズの3作目。北村薫・著『覆面作家の夢の家』(角川文庫)。『覆面作家は二人いる』『覆面作家の愛の歌』に続くこの本で、シリーズ完結となっている。クリスマスに始まった物語が、再び訪れようとするクリスマスをもって終わる。愛着のある登場人物との別れは、何とも名残惜しく、さびしくなる。本を開けばいつでも会えるのだけれど。

 1話目の「覆面作家と謎の写真」では、マンボウ、思い出の写真、きな粉まみれのダイイングメッセージの3つの謎解きがある。大小さまざまな謎が、実に細やかに描かれている。中でも、海外にいたはずの人物が東京ディズニーランドの写真に写っていたという不可思議な謎が興味深かった(もちろん謎解きはできなかった…)。そこには、せつなく複雑な乙女心と恋心が隠されていて思わず胸が熱くなる。北村氏は、どうしてこうも女性の気持ちがわかるのだろうと、<円紫さんと私>シリーズはもちろんのことこの<覆面作家>シリーズでも思うのだった。

 2話目の「覆面作家、目白を呼ぶ」は、良介の目の前で起こった事故の謎解きである。毒物が混入されたと推理される缶ジュース。けれど、缶は開けられた形跡がない。ここで“残念でした。缶ジュースは関係ありませんでした”とならずに、別の角度から謎解きの重要キーポイントとなって再び登場する。何にも無駄がない。何というミステリー。何という名人技。こういうのは、とっても心地がいい。そして、“人が生きていくのも難しいけれど、人と人が生きていくのも難しいですね”という言葉がじーんと残る。

 3話目の「覆面作家の夢の家」では、ドールハウスで作られた殺人現場の趣深い謎が展開する。ドールハウスが縁で親しくなった和歌史に詳しい学者評論家から、ミステリー作家への難解な12分の1の立体ミステリーの挑戦状。矢で心臓を射貫かれた男、ダイイングメッセージ“恨”の文字。プロポーズに取れるけれど、なぜ恨みの文字なのかが妙。実に知的な謎だ。このお話の中みたいに“二人で並んで同じものの前に立つと、過ごしている時が深いものになる”なんていう関係、すごく素敵だなぁと思う。生きている時間をそうやって誰かと一緒に埋めていけたらなんて…想像、希望、日々妄想。まだ、昨日までの毒にやられているのかもしれない。

4043432038覆面作家の夢の家 (角川文庫)
北村 薫
角川書店 1999-10

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コメント

こんにちは。
ところで、素朴な疑問なのですが、女性は小説が好きなのでしょうか?
本に関するブログをいろいろ見てみても、女性はほとんどが小説について書いています。男性なら、ビジネス書とかを読む人もけっこういるようですが・・・。
人の好みの問題ですから、どうでもいいって言ったらどうでもいいのですが、何となく気になりますね。

投稿: デミアン | 2005.05.22 17:20

デミアンさん、コメントありがとうございます。
うーん、どうなのでしょう…いろんな方がいらっしゃると思いますけど、“ビジネス書”と聞くと男性会社員のイメージが強い気がします。それから、ブログをやっている方って主婦の方が多い印象があるのですが。気のせいかもしれないですね。

投稿: ましろ(デミアンさんへ) | 2005.05.22 20:30

コメントありがとうございます。
確かに「キャリアウーマン」と呼ばれている方以外は、あまりビジネス書は読まないし、興味もわかないでしょうね。
むしろ収入に関わる分野としては、最近流行っている「アフィリエイト」を利用して、副収入を得ようとする人の方が多いように思います。
ちなみに僕は・・・・。ブログを見ていただければわかると思いますが、小説はほとんど読みません。どうも最近の小説は、「売れればいい」式のものが多いように感じます。いかに読者の心を刺激できるかが最大の関心事なのではないでしょうか?
もちろん、その考え方は否定しませんし、否定できません。出版社も営利組織ですから、利益が出なければ経営していけませんから。
ただ、個人的な希望を述べさせていただくと、その利益の中から、仮に売れなくても良質の文学小説や学術書も出版してほしいと願っています。
そういう観点から考えると、川端康成や夏目漱石をはじめとした歴史に名を残した作家は、偉大だと感じます。彼らは儲けよりも、より価値の高い作品の創作に尽力したはずです。そして、事実としてそのような作品を残しました。
出版不況と言われる現代ですから、なかなか難しいと思いますが、娯楽に最大の価値を見出す小説ではなく、文学そのものの価値を高めるような作品が、多数創作される時代が来ることを願っています。

投稿: デミアン | 2005.05.23 10:44

デミアンさん、再びコメントありがとうございます。
確かに「売れればいい」式の本って、とっても多い気がします。でも、多くの人に読まれるからには、惹きつける何かがあるのだと思っています。きっと、プラスになることもあるはずだと。まず、読まないことには見極められませんし。そういう時間も楽しいものです。よくよく考えてみたら、私にとって読書は主に娯楽だなぁと思ったのでした。

投稿: ましろ(デミアンさんへ) | 2005.05.25 18:18

TBさせてもらいました.
<覆面作家シリーズ>は,読んでいてとても気持ちが良い作品ばかりでしたね.
北村薫さんの作風にはまってしまいました.

投稿: モンキーターン | 2005.08.02 20:08

モンキーターンさん、コメント&トラックバックありがとうございます!
私も、とっても気持ちよく読めました。北村さんの作品は、心地よくて好きです。
最近、北村作品から離れているので、恋しくなってきました。

投稿: ましろ(モンキーターンさんへ) | 2005.08.02 23:05

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12分の1のドールハウスで行われた小さな殺人. そこに秘められたメッセージの意味とは!? 天国的美貌を持つミステリー界の人気作家「覆面作家」こと新妻千秋さんが,若手編集者・岡部良介とともに,残された言葉の謎に挑む表題作をはじめ,名コンビが難事件を解き明かす全... [続きを読む]

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