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2005.05.20

溺れる市民

IMG_0046 久しぶりに読んだ(再読じゃなくて)島田雅彦作品『溺れる市民』(河出書房新社)。去年の出版時からずっと気になっていたものの、無限カノン3部作である『彗星の住人』『エトロフの恋』『美しい魂』に途中で挫折しているので読んではいけないような気がしていた。もしもこの『溺れる市民』が最後まで読めなかったら、2度と島田作品を読むことができなくなるかもしれない。嫌いになってしまうかもしれない。そんなプレッシャーがずっしり重くのしかかっていたから、読むのがすごく怖かった。あまりいい評判を聞かなかったというのも関係していたこともあって。

 けれど、読んでみてものすごーく拍子抜け…なんだぁ、大丈夫だったじゃない。あれっ、読んだことあるじゃないの。知ってる知ってるこの話。なんと、ほとんどが「文藝」の島田雅彦特集号から連載されていた作品だったのだった。特集号っていったら、ファンなら買うじゃない。連載だって、当然チェックするじゃない。もう、驚かさないでよ。深刻に考えていたのに。妙な緊張を感じていたのに。あぁ、悔しい。してやられた気分。私の数ヶ月は何だったの?くー、泣けてくる。あぁ、島田氏の不敵な笑みが浮かんでしまう。“きみは実にお馬鹿さんだね…”とか“ふふっ、何てまぬけちゃん”(←乙女の妄想)なんて声まで聞こえてくる。

 そして、その言葉にほろりと頬を赤く染めたまま頷く私。はい、馬鹿です。まぬけです。やっぱり好きです…と。描かれているのは、何という毒。何という悪趣味。そういう島田雅彦作品にはお馴染みの世界。“スキャンダラス”だなんて宣伝されていたから、新境地を開拓したのかと覚悟だって決めていたのに安心して楽しめてしまった。思いのほかすんなりと。あっさりと。流れるままに。心なしか文体がさらりとしているような。今までの作品の中で、一番読みやすいのではないかしら。そんな気がしてしまった。それは、作品が心地よい感じに力が抜けているからかもしれない。

 内容は、自らの欲望に溺れて人生を踏み外してしまう人々の物語(主に)。東京郊外の眠りが丘という夢想の町を舞台に繰り広げられる。美脚に捧ぐ、あゆみちゃんのお母さん、聖人の三角関係、幻の女優、オナニスト一輝の詩…などの短編が、初級篇・中級篇・上級篇の3つに別れて展開する。私のツボは、全編パロディーのような“古風の遺言”。このお話は登場人物の名前を連ねただけで、読んだときのクスリと笑っちゃうような感覚が楽しめなくなってしまうので、書かない。というか、書けない。挫折してしまった“カノン3部作”に、もう一度挑戦してみようかなぁと思わせてくれるようなおもしろさ。だって、やっぱり好きなんだもの。その気持ちを引き出したほどに、楽しめた作品だった。

4309408230溺れる市民 (河出文庫)
島田 雅彦
河出書房新社 2006-12-05

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コメント

こんばんは、お久しぶりですm(_ _)m

『溺れる市民』読まれたんですね~♪
ましろさんのおっしゃるとおり、ここなしか文体がさらりとしているっていうのに同感です。
もしかしたらこの作品は、立て続けに大作を書いて新たな文体(スタイル)に移行した島田雅彦の、初期からのファンへのリップサービスだったのではと思えてきます(笑)

ましろさんの記事に影響されて今日山本文緒の文庫を2冊ほど購入してきました♪
読むのが楽しみです。

投稿: ya-ya-ma | 2005.05.20 22:49

ya-ya-maさん、コメントありがとうございます。
島田雅彦作品の中の男性って、
“おぼこちゃん”なんじゃないかなぁなんて、
いつも思ってしまうんです。
難しいことばっかり言っていたかと思ったら、
急にかわいい一面を見せる。そんな感じが好きなのです。

山本文緒さんの本、何を読まれるんですか?
ぜひ記事に書いてほしいです。

投稿: ましろ(ya-ya-maさんへ) | 2005.05.21 00:19

オナニスト・・・・・・(-_-;)むー

ましろさんが、だんだん「乙女」から遠のいていくような。。。僕の勘違いであってほしい!涙

投稿: デミアン | 2005.05.21 09:48

デミアンさん、コメントありがとうございます。
むきゃぁ、そんなに強調しないでくださいませー!!ドキドキしながら初めて使った恥ずかしい言葉なのデスヨ。
乙女的には、ちょぴり傷心ですぅ。

投稿: ましろ(デミアンさんへ) | 2005.05.21 11:34

"おぼこちゃん"ってそういう意味なんですか(笑)
だとしたら、島田作品の男性読者はまさに、この主人公のおぼこちゃん的気質を疑似体験することに快感をおぼえているしょーもないやつら(自分も含めて)って感じですかね(爆)

山本文緒の本は「ブラック・ティー」っていう短編集と「きっと君は泣く」を買ってきました。全然わけもわからず適当に買ったのであんましいいチョイスじゃないかもしれないです(汗)
ただ、出だしの1行がどれも印象的でちょと惹かれました♪

投稿: ya-ya-ma | 2005.05.21 23:47

ya-ya-maさん、再びコメントありがとうございます。
男性のかわいいところって、島田作品の中では主に性的なことなのですけれど。書けません(笑)そばに読者の男性がいたら、好感&興味を持ってしまいます。
山本文緒さんの本は、とっても読みやすくて1冊はまるとどんどん読みたくなってしまうかもしれません。どろっとしたところもあるのですが、私は好きです。どちらの本もおもしろかったですよ。

投稿: ましろ(ya-ya-maさんへ) | 2005.05.22 20:16

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