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2005.05.09

エコノミカル・パレス

2005419_024 午前7時に起きて7時5分から台所で雑文書きの仕事(0~3万円)をする。水、日曜以外の11時から5時までがビストロ・ナカ(3千6百円)、月、水、木、金曜日の8時から12時までがスナックたんぽぽ(8千円+チップ)。最も多い日で1日6万千6百円。1日3千6百円~1万千6百円保証される日数は1ヶ月に20日…

 かなり切羽詰まってこんな計算をしていながらも、お金のことにルーズな人は嫌だなあと思った。買いたい物を我慢せずに買うために消費者金融に軽い気持ちでお金を借りてしまうことにも、お人好しぶったお金の使い方をしてしまうことも、モヤモヤした思いを感じずにはいられなかった。私は決して誰かに誇れるような、そんな立派な人間ではないのだけれど。案外、嫌悪感を抱く自分に少々驚きつつ。これが、角田光代著『エコノミカル・パレス』(講談社)を読み終えた素直な感想であった。

 文章を書いたりアルバイトをしたりしながら生活している主人公は、30を過ぎても定職に就こうとしないヤスオと暮らしている。仕事帰りに買い物を頼まれるものだから、主人公の出費はかさむばかり。ヤスオは買い物を頼むばかりでほとんど代金を払おうとしない。その上、コツコツ働こうという意欲はまるでない。年下の正社員にはプライドの高い無能として遠巻きにされ、年上の正社員にはインテリ系アルバイトとして馬鹿にされ…

 すると、“そんなタマシイのない職場、誰が好きこのんで1年以上続けたいと思うわけ?”などと言う。給与、待遇、仕事内容、人間関係、福利厚生、それらよりもタマシイの問題の方がヤスオには重要なのだった。1年の疲れが出たと言ってテレビの前で横たわり、次の職を捜しにいこうともしない。主人公は思う、ヤスオはタマシイがないと見下げる仕事場で自分が見下げられ、1年も使い走りに近い労働をしてきたのかと。

 けれど、婚姻関係で結ばれているわけではない彼を養うほどの甲斐性や気概があるわけではない主人公。それなのに、食費や家賃はどうするのか、これから先どうするのか、不安があっても訊きたくても、言い出せない。狭いアパートに転がり込んできた知り合いには、なおさらお金に関することは訊けない。“やっぱニンゲン自由が一番。金を第一に考えたら馬鹿を見る”なんて言葉を聞きながら、料理の材料を買うために3軒もの店をまわる。えへらえへら笑いながら。

 何か違うのではないか?おかしいのではないか?そう思うのに、なぜか主人公は唯一の正しい登場人物として読み手に認識される。嫌悪感を覚えながらも。ヤスオは普通じゃない。居候する知り合いは常識はずれだ。ビストロ・ナカの主人はコンプレックスの塊だ…などと思いながら、そういう私もどこか変じゃないのと気づかされる。この本に描かれていたのは、どこかにいる私たちじゃないかと。

4062752042エコノミカル・パレス (講談社文庫)
角田 光代
講談社 2005-10

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コメント

この小説を読んだとき、同じような気持ちになりました。
登場人物たちに疑問を抱くのに読みつづけ、最後まで結局嫌悪感を抱いたり疑問をもったりしてるんですが、最後には納得してしまうんですよね。
私も同じじゃないかって。
不思議な作品ですよね。
最後には共鳴していました。
きっと最初から共鳴していたんだろうなって思いました。

投稿: sakurai | 2005.05.09 21:41

sakuraiさん、コメント&トラックバックありがとうございます♪
本当に不思議な小説ですよね。疑問と嫌悪感を抱きながら、納得しているなんて。sakuraiさんの“共鳴”という言葉、すごくぴったりだと思います。そうですそうですと、頷いてしまいました。
そして、角田さんの小説はやっぱり好きだなぁと改めて思いました。
この小説に出てくるような人が多い世の中って、どうなのかしらいいのかしらと考えつつ…また読みたくなってしまうような気がします。

投稿: ましろ(sakuraiさんへ) | 2005.05.10 17:19

こんばんは。TBさせていただきました。
これ読んでますます角田さんが気になる作家になってしまいました。「対岸の彼女」を最初に読んだんですが、その頃はだいぶ落ち着いてたんですかねえ。他の小説はちょっと痛すぎるんですが、でも気になって。
金勘定とかリアルすぎるしどーしようもないんだけど、なんか怒る気にもなれないし、立場は違うのに自分を見てるみたいだし。確かに不思議な小説でした。

投稿: ざれこ | 2005.11.14 01:44

ざれこさん、コメント&TBありがとうございます。
“痛い”というのはよく聞きますけど、私は全くそう感じたことがなく…きっと、リアルに私が痛い人生を送っているからだと思うのですが。
「対岸の彼女」は、かなり読みやすかった印象があります。私の中では「空中庭園」あたりから、ぐっとそうなってきた気がしています。
なんて…私の分析は甘い。

投稿: ましろ(ざれこさんへ) | 2005.11.14 20:54

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